第25話「調査の結果」
王家の調査が入ったのは、ギルドの手紙から五日後だった。
殿下の指示で動いた調査官が、王国薬師ギルドの登録書類と、各薬師からの報告記録を照合した。表向きは「聖獣の伴侶の活動に関する法的確認」という名目だったが、その過程で別のものが出てきた、と殿下が教えてくれた。
「……別のもの、とは」
「ギルドが公認している薬の品質記録に、不自然な点がありました」
◆
殿下が持ってきた資料には、いくつかの薬品の成分記録が並んでいた。
私はそれをフェンと一緒に見た。加護のおかげで、薬草の知識は人並み以上にある。数値を見ていくうちに、気づいた。
「……これは」
「わかりますか」
「解熱剤として売られている薬の、主成分の量が少ない。処方箋上は規定量があるはずなのに、半分以下です」
「そうです」
「それが複数の製品に、同じように」
殿下が静かに頷いた。
「品質記録を偽造して、材料を節約していたとみられます。浮かせた費用は——どこへ行ったのか、今も調べているところです」
私はしばらく、その書類を見ていた。
◆
「……つまり」
私が静かに言うと、殿下が「はい」と答えた。
「ギルドが定めた価格で薬を買っていた人たちは、その値段に見合わない薬を受け取っていた」
「そういうことになります」
私はしばらく黙った。
腹立たしいとは少し違った。虚しい、という感覚だった。
薬を買える人たちでさえ、正しい薬を受け取れていなかった。払えない人たちは受け取ることすらできなかった。そういう仕組みの中に、研究所は立っていたのだ。
「クレイン副ギルドマスターは」
「関与が疑われています。本人は否定していますが、記録の書き換えに使われた印章が、副ギルドマスター室の管轄下にあったことが判明しました」
◆
フェンが低く唸った。
「……腐っている」
「はい」
「エリーゼが嫌がらせを受けたのは、調査が入ることを恐れたからか」
「その可能性が高いとみています。研究所が注目を集めれば、比較される。比較されれば、品質の差が目立つ」
フェンがゆっくりと私を見た。
「怒っていないのか」
「……怒っています。ただ、静かに怒っています」
「どういう意味だ」
「叫んでも何も変わらないので、変えられることを考えています」
フェンが少しの間、黙った。それから「そうか」とだけ言った。
◆
「エリーゼさん」
殿下が静かに言った。
「この件は、王家として正式に処分します。あなたの研究所の活動は、法的に何ら問題がないことも、公式に文書で確認します」
「ありがとうございます」
「ただ……正式な発表の前に、一度クレイン本人と話す機会があります。その場に、同席していただけますか」
「私が、ですか」
「あなたの研究所に対して、不当な圧力をかけた当事者です。あなたが同席する権利があります」
私は少しの間、考えた。
会いたいかと言われれば、そうでもなかった。でも——逃げる理由もなかった。
「……わかりました。同席します」
「フェンリルも来ますか」
フェンが「当然だ」と言った。
殿下が小さく息をついて、それから「心強い」と言った。
フェンが「俺に感謝するな」と言った。
私は少しだけ笑った。この二人のやり取りが、いつの間にか好きになっていた。
(第26話へ続く)




