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第25話「調査の結果」

 王家の調査が入ったのは、ギルドの手紙から五日後だった。


 殿下の指示で動いた調査官が、王国薬師ギルドの登録書類と、各薬師からの報告記録を照合した。表向きは「聖獣の伴侶の活動に関する法的確認」という名目だったが、その過程で別のものが出てきた、と殿下が教えてくれた。


「……別のもの、とは」


「ギルドが公認している薬の品質記録に、不自然な点がありました」



 殿下が持ってきた資料には、いくつかの薬品の成分記録が並んでいた。


 私はそれをフェンと一緒に見た。加護のおかげで、薬草の知識は人並み以上にある。数値を見ていくうちに、気づいた。


「……これは」


「わかりますか」


「解熱剤として売られている薬の、主成分の量が少ない。処方箋上は規定量があるはずなのに、半分以下です」


「そうです」


「それが複数の製品に、同じように」


 殿下が静かに頷いた。


「品質記録を偽造して、材料を節約していたとみられます。浮かせた費用は——どこへ行ったのか、今も調べているところです」


 私はしばらく、その書類を見ていた。



「……つまり」


 私が静かに言うと、殿下が「はい」と答えた。


「ギルドが定めた価格で薬を買っていた人たちは、その値段に見合わない薬を受け取っていた」


「そういうことになります」


 私はしばらく黙った。


 腹立たしいとは少し違った。虚しい、という感覚だった。


 薬を買える人たちでさえ、正しい薬を受け取れていなかった。払えない人たちは受け取ることすらできなかった。そういう仕組みの中に、研究所は立っていたのだ。


「クレイン副ギルドマスターは」


「関与が疑われています。本人は否定していますが、記録の書き換えに使われた印章が、副ギルドマスター室の管轄下にあったことが判明しました」



 フェンが低く唸った。


「……腐っている」


「はい」


「エリーゼが嫌がらせを受けたのは、調査が入ることを恐れたからか」


「その可能性が高いとみています。研究所が注目を集めれば、比較される。比較されれば、品質の差が目立つ」


 フェンがゆっくりと私を見た。


「怒っていないのか」


「……怒っています。ただ、静かに怒っています」


「どういう意味だ」


「叫んでも何も変わらないので、変えられることを考えています」


 フェンが少しの間、黙った。それから「そうか」とだけ言った。



「エリーゼさん」


 殿下が静かに言った。


「この件は、王家として正式に処分します。あなたの研究所の活動は、法的に何ら問題がないことも、公式に文書で確認します」


「ありがとうございます」


「ただ……正式な発表の前に、一度クレイン本人と話す機会があります。その場に、同席していただけますか」


「私が、ですか」


「あなたの研究所に対して、不当な圧力をかけた当事者です。あなたが同席する権利があります」


 私は少しの間、考えた。


 会いたいかと言われれば、そうでもなかった。でも——逃げる理由もなかった。


「……わかりました。同席します」


「フェンリルも来ますか」


 フェンが「当然だ」と言った。


 殿下が小さく息をついて、それから「心強い」と言った。


 フェンが「俺に感謝するな」と言った。


 私は少しだけ笑った。この二人のやり取りが、いつの間にか好きになっていた。


(第26話へ続く)

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