表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/26

第24話「ギルドからの手紙」

 研究所を開いて十日ほどが経ったある朝、一通の手紙が届いた。


 差出人は「王国薬師ギルド 副ギルドマスター ハロルド・クレイン」とあった。


 内容は、丁寧な文面に包まれていたが、要旨はこうだった。


 「正式な薬師資格を持たない者が調合・提供する薬は、王国薬師法の規定に抵触する恐れがある。つきましては、活動の一時停止と、ギルドへの届け出を求める」


 私はしばらく、その手紙を見つめた。


「……フェン」


「読んだ」


「どう思いますか」


「嫌がらせだ」


 フェンが短く言った。



 父に見せると、父の顔が険しくなった。


「……王国薬師法というのは確かにある。だが、聖獣の加護を持つ薬師については、特例条項が設けられているはずだ。クレイン副ギルドマスターが知らないわけがない」


「では、なぜ」


「知っていて、言っている」


 父が手紙を畳んで、テーブルに置いた。


「エリーゼ。お前の研究所は、開いて十日で近隣に広まった。薬師ギルドにとって、それは困る話だ」


「困る、とは」


「お前が無料で薬を出し、払えない人間には別の形で対応するという噂が立っている。ギルドに登録している薬師は、ギルドの定めた価格で薬を売らなければならない。それより安くできないし、無料にもできない」


 私は静かに聞いていた。


「お前の存在が、ギルドの商売を脅かしていると判断した誰かが、動いたということだ」



 その日の午後、カイル殿下に手紙を書いた。


 状況を説明して、「このような件は王家の管轄ですか、それとも別の窓口がありますか」と聞いた。返事は翌朝には来た。几帳面な小さい字で、こう書かれていた。


 「聖獣の伴侶の活動に対してギルドが圧力をかけることは、王家として見過ごせません。明日、直接お話を聞かせてください」


 その夜、フェンが私の隣でぽつりと言った。


「怖いか」


「……少し」


「正直だな」


「嘘をついても仕方がないので」


 フェンが私の肩に頭を乗せた。重かった。いつも通り。


「お前は何も悪いことをしていない」


「わかっています」


「わかっているなら、怖がらなくていい」


「怖がることと、悪いことをしたかどうかは、別の話です」


 フェンが少しの間、黙った。


「……そうだな」


「ただ、フェンがいるから大丈夫だと思っています」


「当然だ」



 翌朝、殿下がヴァルハイン家へ来た。


 手紙を見せると、殿下がゆっくりと読んで、それから静かに目を細めた。


「……ハロルド・クレインは、ギルドの中でも利権に敏感な人物として知られています」


「ご存じだったのですか」


「名前だけは。ただ、こういう動き方をするとは思いませんでした」


 殿下が手紙を畳んで、私に返した。


「エリーゼさん。これは、あなたの研究所が認められている証拠でもあります」


「……そういう見方もあるのですね」


「影響力のない相手を、わざわざ潰しにはいかない」


 確かに、そうかもしれなかった。


「ただ、放置すると面倒なことになります。王家の名のもとで正式に調査を入れましょう。聖獣の加護を持つ薬師への特例は、法典に明記されています。向こうの主張には根拠がない」


 殿下の声は静かだったが、迷いがなかった。



 フェンが殿下をじっと見た。


「……お前は、動くのが早い」


「あなたが待っているからです」


「俺ではなくエリーゼのことだろう」


「そうです」


 フェンが鼻から息を抜いた。それから少しだけ、目を細めた。


「……認める」


「何をですか」


「お前が、エリーゼの役に立っていることを」


 殿下が少し驚いたような顔をして、それからゆっくりと「ありがとうございます」と言った。


 私はその二人のやり取りを見ながら、少し笑った。


 ギルドの手紙は確かに不快だった。でも——何かあったとき、隣に立ってくれる人がいる。それだけで、怖さの半分は消えていた。


(第25話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ