↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
235/240

第236話「十年後」

あの日から、さらに十年の月日が流れた。


「お母様、行ってきます」


 朝の光の中、すっかり大人びたエリナが、旅装を整えて居間に現れた。


 十六歳になったエリナは、もう立派な薬草師として、王都の学び舎で正式に学び始めていた。


「気をつけて。……手紙、待っていますね」


 私がそう言うと、エリナは微笑んで頷いた。


「はい。……必ず、書きます」


 その凛とした佇まいに、私はかつての自分を重ねた。


 七年前、何も持たずに屋敷を出た朝と、今、希望を胸に旅立つエリナの朝。


 同じ「旅立ち」でも、まるで違う意味を持っていた。


 カイルが、エリナの荷物を馬車に積みながら、感慨深げに呟いた。


「本当に、大きくなったな」


「はい。……あっという間でした」


 私がそう答えると、カイルは静かに私の肩を抱いた。


「お前に似て、芯の強い子に育った」


「あなたに似て、優しい子にも」


 私がそう返すと、カイルは小さく笑った。


 馬車が発つ間際、フェンがエリナのもとへ近づいた。


「エリナ。……立派に、学んでこい」


「はい、フェン。……ありがとう、今までずっと守ってくれて」


 その言葉に、フェンは静かに目を細めた。


「お前が困ったときは、いつでも駆けつける。……この背に乗って」


「はい。……頼りにしています」


 エリナは、フェンの首に、そっと抱きついた。


 馬車が走り出すと、エリナは何度も振り返って、手を振ってくれた。


 その姿が見えなくなるまで、私たちは静かに見送り続けた。


「寂しくなるな」


 カイルが、静かに呟いた。


「はい。……でも、誇らしい気持ちのほうが、ずっと大きいです」


 私がそう答えると、カイルは静かに頷いた。


 薬草園に、新しい静けさが訪れていた。


 けれど、それは寂しさだけではない。


 子が巣立っていく、確かな成長の証だった。


 私はその事実を、静かに、けれど深く胸に刻んだ。


(第237話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。