第235話「はじまりの物語」
ある雨の夜、エリナが珍しく、寝る前にそう尋ねてきた。
「お母様、お父様と、どうやって出会ったのですか」
その問いに、私はカイルと顔を見合わせて、思わず微笑んだ。
「不思議なことを、聞くのですね」
「学び舎で、お友達が聞いてきたんです。……エリーゼ様の物語を、知りたいって」
その言葉に、私は静かに頷いた。
「では、少しだけ、お話ししましょうか」
私はエリナを膝に乗せて、静かに語り始めた。
「昔、お母様は、ある屋敷で暮らしていました。……でも、そこには、お母様の居場所がありませんでした」
「居場所が、ない?」
「はい。……誰にも必要とされていないと、そう思っていました」
エリナは、真剣な顔で耳を傾けていた。
「ある朝、お母様はその屋敷を出て、一人で歩いていました。……そして、白い森で、フェンに出会ったのです」
「フェンと……!」
エリナが、驚いたように声を上げた。
少し離れた場所で聞いていたフェンが、静かに口を挟んだ。
「あの日のことは、俺もよく覚えている」
「フェン、教えて!」
エリナがそう頼むと、フェンは懐かしそうに目を細めた。
「お前の母は、震えながらも、まっすぐに俺を見ていた。……それが、印象的だった」
「それから、フェンが、お母様を助けてくれたのですね」
「いや」
フェンは、静かに首を振った。
「助けられたのは、俺のほうだ。……数百年、独りだった俺を、お前の母が見つけてくれた」
その言葉に、私は胸が熱くなった。
「そして、お父様とは」
エリナが続きを促すと、カイルが静かに口を開いた。
「俺は、遠くからずっと、お前の母を見ていた。……その強さに、惹かれていったんだ」
その率直な告白に、私は思わず頬を赤らめた。
「たくさんの困難を、一緒に乗り越えて。……そうして、今のお前が生まれた」
私がそう締めくくると、エリナは静かに、けれど確かな声で言った。
「みんなが、頑張ったから、今があるんですね」
その言葉に、私たちは静かに頷いた。
窓の外では、雨が優しく降り続けていた。
過去の物語を語り継ぐこの時間もまた、私たちの大切な財産だった。
(第236話へ続く)




