第234話「家族の肖像」
「エリーゼ様、宮廷画家をお呼びしました」
ある日、ナーシャがそう告げた。
「画家、ですか」
私が首を傾げると、玄関先から聞き覚えのある声が響いた。
「エリーゼ殿、突然すまない」
アルヴィン様だった。
「殿下、いらしていたのですね」
「実は、折り入って頼みがあってな」
アルヴィン様は、少し照れくさそうに続けた。
「お前たち家族の肖像画を、王城に飾りたいのだ」
その申し出に、私は思わず驚いた。
「私たちの、ですか」
「ああ。……お前たちの物語は、この国にとって大切なものだ。記録として、残しておきたい」
その言葉に、カイルも静かに頷いた。
「兄上が、そこまで言うなら」
こうして、薬草園の庭先に、画架が立てられることになった。
「エリナ、じっとしていられますか」
私がそう尋ねると、エリナは真剣な顔で頷いた。
「がんばります!」
その健気な様子に、周りの大人たちは思わず微笑んだ。
カイルが私の隣に立ち、エリナがその前に座る。
そして、フェンが静かに、私たちの後ろに寄り添った。
「フェンも、一緒でいいのですか」
私が尋ねると、フェンは当然だという顔をした。
「俺抜きの家族画など、成立せんだろう」
その言葉に、私は思わず笑ってしまった。
画家が、丁寧に筆を進めていく。
長い時間、じっとしているのは大変だったが、エリナは最後まで頑張り抜いた。
「できました」
画家がそう言って、完成した絵を見せてくれた。
そこには、寄り添う家族の姿が、生き生きと描かれていた。
「素敵な絵ですね」
私が呟くと、カイルも感慨深げに頷いた。
「これが、俺たちの今なんだな」
その言葉に、私は静かに微笑んだ。
この一枚の絵に、これまでの歩みのすべてが、確かに刻まれている気がした。
夕暮れ、完成した絵を見つめながら、私は静かな幸福感に包まれていた。
この瞬間を、こうして形に残せたことが、何よりも嬉しかった。
(第235話へ続く)




