第233話「フェンの憂い」
ある夜、私は縁側で、一人佇むフェンの姿を見つけた。
「フェン、こんな時間にどうしたのですか」
私が声をかけると、フェンは少し驚いたように振り返った。
「……眠れなくてな」
その声には、いつもとは違う、かすかな翳りがあった。
「何か、悩みごとですか」
私がそっと隣に座ると、フェンはしばらく黙っていた。
「エリナが、大きくなった」
やがて、フェンはぽつりと呟いた。
「はい。……すっかり、頼もしくなりました」
「そのたびに、思うことがある」
フェンの声は、静かで、どこか遠くを見るようだった。
「俺たちの時は、お前たちとは違う。……いずれ、お前もカイルもエリナも、俺より先に歳を重ねていく」
その言葉に、私は胸を突かれた。
「それが、怖いのですか」
私がそう尋ねると、フェンは静かに頷いた。
「怖い、というより。……いつか来る別れを、想像してしまう」
その正直な吐露に、私はしばらく言葉を探した。
「フェン。……私も、いつかは別れが来ることを知っています」
私は静かに、けれど確かな声で続けた。
「でも、だからこそ、今この瞬間を大切にしたいと思うのです」
その言葉に、フェンはゆっくりと私を見た。
「後悔のないように、精一杯愛して。……精一杯、笑い合う」
「それが、俺たちにできることか」
「はい。……悲しみを恐れて、今を疎かにするより、ずっといいと思います」
私がそう言うと、フェンは長い間、黙っていた。
やがて、静かに息をついた。
「……お前らしい答えだ」
その声には、先ほどよりも、幾分か軽さが戻っていた。
「フェン。あなたがいてくれるだけで、私たちは十分幸せです」
私がそう言うと、フェンは静かに目を細めた。
「その言葉だけで、十分だ」
夜空には、星々が静かに瞬いていた。
限りある時間だからこそ、その一瞬一瞬が、かけがえのないものになる。
私はその想いを、静かに胸に刻んだ。
(第234話へ続く)




