第231話「五年後の朝」
あれから、五年の月日が流れた。
「お母様、おはようございます」
朝の光の中、すっかり大きくなったエリナが、元気に居間へ駆けてきた。
「おはようございます、エリナ」
私は微笑みながら、その成長した姿を見つめた。
六歳になったエリナは、もう立派に薬草の見分け方を覚え、簡単な調合もこなせるようになっていた。
「今日は、村の見回りに行っていいですか」
エリナがそう尋ねると、カイルが優しく答えた。
「一人で、大丈夫か」
「大丈夫です! もう、何度も行っていますから」
その頼もしい返事に、カイルは静かに頷いた。
「気をつけて、行っておいで」
薬草籠を背負い、エリナは元気よく駆けていった。
その背中を見送りながら、私は静かな感慨を覚えた。
「随分と、しっかりしましたね」
私がそう言うと、カイルも頷いた。
「ああ。……もう、俺たちの手を離れつつある」
その言葉には、少しの寂しさと、それ以上の誇らしさが滲んでいた。
少し離れた場所で、フェンが穏やかに日向ぼっこをしていた。
「フェンも、随分と落ち着いたものですね」
私がそう声をかけると、フェンは片目を開けた。
「歳を取ったのだろう。……もっとも、聖獣の時間の流れは、お前たちとは違うがな」
その飄々とした答えに、私は思わず笑ってしまった。
昼過ぎ、エリナが村から戻ってきた。
「お母様! 大きな怪我をした人がいて、ちゃんと手当てできました!」
その誇らしげな報告に、私は心から喜んだ。
「よくやりましたね、エリナ」
「はい! これからも、もっと勉強します」
その真剣な瞳に、私はかつての自分を重ねた。
七年前、何も持たずに屋敷を出た私。
今、私の隣には、愛する家族と、確かな未来を歩む娘がいる。
夕暮れ、薬草園を照らす橙色の光の中で、私は静かに幸せを噛み締めていた。
この穏やかな日々が、これからもずっと続いていきますように。
その願いを胸に、私は今日という一日を、大切に締めくくった。
(第232話へ続く)




