第219話「王子の決断」
ある日、王都からアルヴィン様が、珍しく改まった様子で薬草園を訪れた。
「エリーゼ殿、カイル。……少し、報告したいことがある」
その表情には、これまでにない晴れやかさがあった。
「何でしょうか」
私が尋ねると、アルヴィン様は静かに口を開いた。
「学び舎の成功を受けて、国全体の医療制度を見直すことになった」
その言葉に、私は思わず目を見開いた。
「本当ですか」
「ああ。……王都だけでなく、各地に学び舎の分校を建てる計画だ」
アルヴィン様は、誇らしげに続けた。
「エリーゼ殿の理念を、この国の礎にしたい」
その壮大な計画に、カイルも驚いたように口を開いた。
「兄上が、そこまで本気になるとは」
「お前たちに、多くを教えられたからな」
アルヴィン様は、少し照れくさそうに答えた。
「それに、もう一つ」
彼は、さらに続けた。
「王妃を、迎えることにした」
その報告に、私は思わず声を上げた。
「まあ……! どのような方ですか」
「隣国の公爵令嬢だ。……聡明で、民のことを第一に考える女性でな」
アルヴィン様の声には、確かな温かさがあった。
「彼女も、学び舎の理念に強く共感してくれている」
「素晴らしい方なのですね」
私がそう言うと、アルヴィン様は静かに頷いた。
「エリーゼ殿たちの姿を見て、私も、心から信頼できる相手と歩みたいと思うようになった」
その言葉に、フェンが静かに口を挟んだ。
「随分と、人が変わったものだな」
「聖獣殿にそう言われると、感慨深いものがある」
アルヴィン様は苦笑しながら答えた。
「近く、婚儀を挙げる予定だ。……その際は、ぜひ皆で来てほしい」
「もちろんです。……喜んで」
私がそう答えると、アルヴィン様は満足げに微笑んだ。
夕暮れ、王都へ帰るアルヴィン様を見送りながら、私は静かな感慨を覚えていた。
かつて、玉座のためにフェンの力を求めた第一王子。
その人が、今は民のために国を導こうとしている。
その変化を見守れたことが、何よりの喜びだった。
「良い王になるだろうな」
カイルが、静かに呟いた。
「はい。……きっと」
薬草園に、新しい未来の予感が満ちていた。
(第220話へ続く)




