第216話「ただいま、エリナ」
薬草園の丘が見えてきたとき、私は思わず身を乗り出した。
「見えました……!」
フェンが速度を上げ、あっという間に薬草園の前に着いた。
「エリーゼ様……!」
真っ先に飛び出してきたのは、ナーシャだった。
「おかえりなさい!」
その後ろから、マーサさんが、エリナを抱いて出てきた。
「エリナ……!」
私は駆け寄って、その小さな身体をそっと受け取った。
二週間ほど会わなかっただけなのに、エリナは少し大きくなったように見えた。
「大きくなりましたね……」
私は思わず、涙ぐんでしまった。
エリナは、私の顔をじっと見つめて、それから小さく笑った。
「あ、あー」
その声に、私の胸がじんと熱くなった。
「覚えていてくれたのですね」
私がそう言うと、マーサさんが優しく微笑んだ。
「エリナ様は、毎晩お二人の話をして差し上げていました。……きっと、覚えていらっしゃいますよ」
その言葉に、私は深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
「いいえ。……可愛らしいエリナ様のお世話ができて、私たちも幸せでした」
カイルも、エリナの頬にそっと触れた。
「ただいま」
その声に、エリナはまた小さく笑った。
「随分と、機嫌がいいな」
カイルがそう言うと、フェンが近づいてきて、エリナの匂いを確かめた。
「……元気そうだな」
フェンの声に、エリナは小さな手を伸ばした。
「懐いているようだ」
フェンは満足げに、鼻先をそっと寄せた。
夕暮れ、家族みんなで囲んだ食卓は、これまでにない賑やかさに満ちていた。
「レイアードでの話、聞かせてください」
ソフィが、興味津々に尋ねた。
「そうですね……。少し長い話になりますが」
私はそう言いながら、旅の出来事を、少しずつ語り始めた。
悲しみに沈んでいた聖獣が、再び前を向いた話。
森が緑を取り戻していく、奇跡のような光景。
みんなが真剣に耳を傾ける中、エリナは私の腕の中で、穏やかな寝息を立てていた。
この小さな命を守るためにも、私はこれからも歩き続けようと思った。
薬草園に、また穏やかな日々が戻ってきていた。
(第217話へ続く)




