第215話「森を去る日」
それから十日が過ぎ、森はすっかり緑を取り戻していた。
「見違えるようだな」
カイルが、青々とした木々を見上げて言った。
「はい。……本当に、よかったです」
私も、その光景に静かな喜びを感じていた。
リヴァは、以前とは見違えるほど、毛艶を取り戻していた。
「そろそろ、帰る頃合いだろう」
リヴァが、そう切り出した。
「エリナが、待っているのだろう」
「はい。……もう、恋しくて仕方ありません」
私が答えると、リヴァは小さく笑った。
「良い母親だ」
その言葉に、私は少し照れくさくなった。
「フェン。……お前には、返しきれない恩がある」
リヴァが、フェンに向き直った。
「恩などいらん。……お前が、また立ち上がってくれただけで十分だ」
フェンは、素っ気なくそう答えた。けれど、その声には確かな温かさがあった。
「これから、どうするつもりだ」
フェンが尋ねると、リヴァはしばらく考えて答えた。
「この森を、また守っていこうと思う。……ミラが好きだった場所だ」
「良い選択だ」
フェンが、静かに頷いた。
「時々、様子を見に来る」
「歓迎する。……次は、エリナも連れてきてくれ」
リヴァの言葉に、私は嬉しくなって頷いた。
「必ず。……約束します」
旅立ちの朝、森の入り口まで、リヴァが見送りに来てくれた。
「エリーゼ。……お前の言葉が、俺を救った」
リヴァは、深く頭を下げた。
「あなた自身の強さです」
私がそう答えると、リヴァは静かに首を振った。
「いや。……お前がいなければ、俺はまだあの場所で、うずくまっていただろう」
その言葉に、私は静かに微笑んだ。
「また、会いましょう」
「ああ。……必ず」
フェンの背に乗り、私たちは森を後にした。
振り返ると、リヴァが静かに見送ってくれていた。
その姿は、以前とは比べものにならないほど、力強く見えた。
新しい絆を胸に、私たちは家路についた。
——早く、エリナに会いたい。
その想いだけが、心を満たしていた。
(第216話へ続く)




