第214話「森の目覚め」
白い花に変わったあの日から、リヴァの様子は少しずつ変わっていった。
「今日は、立ってみようと思う」
ある朝、リヴァがそう言って、ゆっくりと身体を起こした。
「無理はしないでください」
私が声をかけると、リヴァは小さく頷いた。
「大丈夫だ。……もう、うずくまってばかりはいられない」
その足取りは、まだおぼつかなかった。けれど、確かに、自分の意志で立ち上がっていた。
「フェン、支えてくれ」
リヴァがそう言うと、フェンは驚いたように目を見開いた。
「お前が、そんなことを頼むとはな」
「うるさい。……一度だけだ」
二匹の狼は、久しぶりに肩を並べて歩き始めた。
その姿を、私とカイルは静かに見守った。
「よかったな」
カイルが、私の肩にそっと手を置いた。
「はい。……本当に」
私は目頭が熱くなるのを感じながら、頷いた。
リヴァが一歩を踏み出すたびに、周囲の枯れた木々に、わずかな緑が戻り始めた。
「木が……」
私は思わず、声を上げた。
「聖獣の心が、森と結びついているのかもしれん」
フェンが、静かにそう言った。
その日から、森の回復は目に見えて進んでいった。
枯れていた木々に若葉が芽吹き、消えていた鳥の声が、少しずつ戻ってきた。
「信じられない光景だ」
同行していたハルト殿が、感嘆の声を漏らした。
夕暮れ、リヴァは私たちの前で、静かに頭を下げた。
「エリーゼ。……お前たちのおかげで、俺は再び前を向けそうだ」
「いいえ。……あなた自身の力です」
私がそう言うと、リヴァは小さく笑った。
「頑固なところは、フェンによく似ている」
「よく言われます」
私が笑うと、フェンが不満げに鼻を鳴らした。
「エリーゼ。……もし良ければ、いつかその娘に会わせてくれないか」
リヴァがそう申し出ると、私は嬉しくなって頷いた。
「ぜひ。……エリナも、きっと喜びます」
森に、穏やかな風が吹き抜けた。
失われかけた命が、再び息を吹き返していく。
その光景を胸に刻みながら、私は静かな達成感を感じていた。
(第215話へ続く)




