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212/244

第212話「凍った心」

それから五日間、私たちは毎日、森の奥へ通い続けた。


「また来たのか」


 リヴァの声には、もう以前ほどの刺々しさはなかった。


「はい。……今日も、スープを持ってきました」


 私がそう言うと、リヴァは小さくため息をついた。


「……少しだけなら」


 その一言に、私は思わず顔を上げた。


「本当ですか」


「気まぐれだ。……勘違いするな」


 リヴァは、ぶっきらぼうにそう言いながらも、私が差し出したスープに、そっと口をつけた。


 その光景を、少し離れた場所からフェンが静かに見守っていた。


「……美味い」


 小さな呟きが、リヴァの口から漏れた。


「よかった」


 私は静かに微笑んだ。


 その日、リヴァは初めて、自分から話し始めた。


「俺の伴侶は、ミラという名だった」


 その名を口にする声には、まだ深い痛みがあった。


「優しくて、よく笑う女だった。……俺の無愛想さも、笑って許してくれた」


「素敵な方だったのですね」


「ああ。……だから、失ったとき」


 リヴァの声が、かすかに震えた。


「世界のすべてが、色を失ったように感じた」


 私は静かに、その言葉に耳を傾けた。


「わかります。……その感覚」


「お前に、何が」


「私も、七年前に。……愛されていないと思い込んで、すべてを諦めかけたことがあります」


 私はそう言いながら、静かに続けた。


「でも、諦めなかったから、今の幸せがあります。……カイルと、フェンと、娘に出会えました」


 その言葉に、リヴァは長い間、黙り込んだ。


「娘、がいるのか」


「はい。……エリナという名です。今は、村で待っています」


 私がそう答えると、リヴァの瞳に、初めて何かが揺れた。


「……ミラも、子を望んでいた」


 その一言に、森の空気が、わずかに和らいだ気がした。


「叶わなかった夢だ」


「その想いを、無駄にしないでください」


 私は静かに、けれど強く言った。


「あなたが生き続けることが、ミラさんの想いを繋ぐことになると思います」


 リヴァは、しばらく私を見つめていた。


 その瞳の奥、凍りついていた何かが、わずかに溶け始めているように見えた。


(第213話へ続く)

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