第212話「凍った心」
それから五日間、私たちは毎日、森の奥へ通い続けた。
「また来たのか」
リヴァの声には、もう以前ほどの刺々しさはなかった。
「はい。……今日も、スープを持ってきました」
私がそう言うと、リヴァは小さくため息をついた。
「……少しだけなら」
その一言に、私は思わず顔を上げた。
「本当ですか」
「気まぐれだ。……勘違いするな」
リヴァは、ぶっきらぼうにそう言いながらも、私が差し出したスープに、そっと口をつけた。
その光景を、少し離れた場所からフェンが静かに見守っていた。
「……美味い」
小さな呟きが、リヴァの口から漏れた。
「よかった」
私は静かに微笑んだ。
その日、リヴァは初めて、自分から話し始めた。
「俺の伴侶は、ミラという名だった」
その名を口にする声には、まだ深い痛みがあった。
「優しくて、よく笑う女だった。……俺の無愛想さも、笑って許してくれた」
「素敵な方だったのですね」
「ああ。……だから、失ったとき」
リヴァの声が、かすかに震えた。
「世界のすべてが、色を失ったように感じた」
私は静かに、その言葉に耳を傾けた。
「わかります。……その感覚」
「お前に、何が」
「私も、七年前に。……愛されていないと思い込んで、すべてを諦めかけたことがあります」
私はそう言いながら、静かに続けた。
「でも、諦めなかったから、今の幸せがあります。……カイルと、フェンと、娘に出会えました」
その言葉に、リヴァは長い間、黙り込んだ。
「娘、がいるのか」
「はい。……エリナという名です。今は、村で待っています」
私がそう答えると、リヴァの瞳に、初めて何かが揺れた。
「……ミラも、子を望んでいた」
その一言に、森の空気が、わずかに和らいだ気がした。
「叶わなかった夢だ」
「その想いを、無駄にしないでください」
私は静かに、けれど強く言った。
「あなたが生き続けることが、ミラさんの想いを繋ぐことになると思います」
リヴァは、しばらく私を見つめていた。
その瞳の奥、凍りついていた何かが、わずかに溶け始めているように見えた。
(第213話へ続く)




