第210話「フェンの想い」
森の外れに天幕を張り、私たちは夜を明かすことにした。
「今日は、退くしかなさそうだな」
カイルが、焚き火に薪をくべながら言った。
「はい。……でも、諦めるわけにはいきません」
私がそう答えると、少し離れた場所に座っていたフェンが、静かに口を開いた。
「すまない。……お前たちを、巻き込んでしまった」
「謝らないでください」
私は静かに首を振った。
「フェンにとって、大切な友人なのですから」
フェンは、しばらく火を見つめたまま黙っていた。
やがて、ぽつりと語り始めた。
「俺も、かつては同じだった」
その言葉に、私は耳を傾けた。
「数百年、伴侶を探し続けて。見つからず、心が擦り切れていった時期がある」
「フェンにも、そんな時が」
「ああ。……あの頃は、誰の言葉も届かなかった」
フェンの声は、静かで、どこか懐かしむようだった。
「だが、お前に出会って。……初めて、心が動いた」
その言葉に、私は静かに微笑んだ。
「あの白い森での出会いですね」
「ああ。……お前が、俺を諦めなかったから、今がある」
フェンはそう言って、私をまっすぐに見つめた。
「だから、今度は俺が、リヴァを諦めない」
その決意に、カイルが静かに頷いた。
「どうすれば、彼の心に届くと思う」
カイルの問いに、フェンはしばらく考え込んだ。
「言葉だけでは、届かないだろう。……あいつは、俺以上に頑固だ」
「では」
「時間をかけるしかない。……何度でも、通う」
フェンの言葉に、私は静かに頷いた。
「私も、一緒に行きます。……何度でも」
その言葉に、フェンは少し驚いたように私を見て、それから小さく笑った。
「相変わらず、無茶を言う」
「あなたが教えてくれたのです。……諦めない心を」
私がそう返すと、フェンは静かに目を細めた。
「悪くない返しだ」
夜空には、満天の星が輝いていた。
その光の下、私たちは静かに、明日への決意を固めていた。
——諦めない。それだけが、私たちの武器だった。
(第211話へ続く)




