第209話「リヴァとの再会」
森の最奥、開けた場所に、その姿はあった。
フェンよりも一回り小さい、漆黒の毛並みの狼。
けれど、その毛並みは所々が抜け落ち、痛々しいほどにやつれていた。
「……リヴァ」
フェンが、震える声でその名を呼んだ。
黒い狼は、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、生気を失ったように濁っていた。
「フェン……なのか」
掠れた声が、森に静かに響いた。
「久しいな、リヴァ。……ずっと、探していた」
フェンがそう言うと、リヴァは力なく首を振った。
「探す価値など、ない。……俺は、もう」
その言葉の途中で、リヴァの周囲の地面から、青い花が一斉に咲き始めた。
「これは……」
私は思わず、後ずさった。
「悲しみが、力になっているのか」
カイルが、緊張した声で呟いた。
「リヴァ。……何があった」
フェンが、静かに一歩近づいた。
「俺の伴侶が、逝った」
リヴァの声には、深い絶望があった。
「病に倒れ、何日も苦しんで。……俺には、何もしてやれなかった」
その告白に、私の胸が締めつけられた。
「それから、俺は。……この森に籠り、誰とも会わなくなった」
リヴァの周りの空気が、さらに重く淀んでいく。
「悲しみに、飲み込まれてしまったのか」
フェンの問いに、リヴァは弱々しく頷いた。
「もう、どうでもいい。……この森ごと、朽ちてしまえばいい」
その言葉に、木々がさらに枯れていくのが見えた。
「リヴァ、それは違う」
私は思わず、前に出た。
「エリーゼ、危ない」
カイルが止めようとしたが、私は静かに首を振った。
「あなたの悲しみは、痛いほどわかります。……でも、それで森を、周りの命を巻き込むのは」
私がそう言うと、リヴァの濁った瞳が、私を捉えた。
「人間の小娘に、何がわかる」
その声には、刃のような鋭さがあった。
けれど、私はひるまなかった。
「私も、大切な人を失いかけたことがあります。……その痛みは、わかるつもりです」
私の言葉に、リヴァはしばらく黙り込んだ。
森に、重い沈黙が広がっていく。
やがて、リヴァが低く唸った。
「……去れ。今は、誰の言葉も聞きたくない」
その拒絶に、私たちは立ち尽くすしかなかった。
解決への道は、まだ遠かった。
(第210話へ続く)




