第208話「枯れゆく森」
レイアード王国に着くと、ハルト殿が青ざめた顔で私たちを迎えた。
「エリーゼ様、カイル様。……よくぞ、いらしてくださいました」
「森の様子は」
カイルが単刀直入に尋ねると、ハルト殿は重い口を開いた。
「日に日に、悪化しております。……森の外縁部まで、木々が枯れ始めました」
その報告に、フェンの表情が険しくなった。
「案内してくれ」
フェンの声には、これまでにない緊迫感があった。
馬車で半日ほど進むと、景色が明らかに変わり始めた。
青々としていた木々が、次第に灰色を帯びていく。
「これは……」
私は思わず、息を呑んだ。
森の入り口に近づくにつれ、空気そのものが、重く淀んでいくのを感じた。
「動物の気配が、まったくない」
カイルが、周囲を警戒しながら呟いた。
普段なら聞こえるはずの鳥の声も、虫の音も、何一つ聞こえなかった。
フェンが、静かに足を止めた。
「……間違いない。この気配は」
「フェン?」
「悲しみの気配だ。……あまりにも、深く、重い」
その言葉に、私は背筋が冷たくなった。
森の奥へ進むにつれ、地面には青い花が点々と咲いているのが見えた。
「あの花です……!」
私が指差すと、フェンは苦しげに目を細めた。
「思っていたより、ずっと広がっている」
その花の群れは、まるで悲しみの足跡のように、森の奥へと続いていた。
「フェン、大丈夫ですか」
私が声をかけると、フェンは小さく頷いた。
「ああ。……だが、覚悟しておいてくれ」
「覚悟?」
「リヴァが、どんな姿になっているか。……俺にも、まだわからない」
その言葉に、カイルが私の隣に立ち、静かに肩を抱いた。
「何があっても、俺たちがついている」
その温もりに、私は静かに頷いた。
夕暮れが迫る森の奥から、かすかに、獣の遠吠えのような声が響いてきた。
それは、これまで聞いたどんな声よりも、深い悲しみに満ちていた。
「……近いな」
フェンが、低く呟いた。
いよいよ、その存在との対面が、目前に迫っていた。
(第209話へ続く)




