第207話「旅立ちの準備」
翌朝、私たちは今後のことを話し合うため、居間に集まった。
「エリナのことだが」
カイルが、真っ先にそう切り出した。
「マーサさんとナーシャに、預かってもらうのはどうだろうか」
その提案に、私は少し胸が締めつけられた。
「まだ、生まれて三月にもならないのに」
「わかっている。……だが、危険な場所に連れていくわけにはいかない」
カイルの言葉は、正しかった。
私は静かに頷いた。
「マーサさん、ナーシャ。……お願いできますか」
私がそう尋ねると、マーサさんは力強く頷いた。
「もちろんです。……エリナ様は、私たちが責任を持ってお世話します」
「私も、精一杯お手伝いします!」
ナーシャも、真剣な表情で応えてくれた。
その心強い言葉に、私は少しだけ安堵した。
昼過ぎ、王都からアルヴィン様が駆けつけてきた。
「話は聞いた。……レイアードの森の異変について」
彼は珍しく、緊張した面持ちだった。
「私も、力になれることがあれば」
「殿下は、国のことがありますから」
私がそう言うと、アルヴィン様は首を振った。
「隣国の脅威は、我が国にとっても他人事ではない。……必要な兵と物資を用意しよう」
その申し出に、カイルが頭を下げた。
「ありがとう、兄上」
「礼はいらない。……お前たちには、返しきれない恩がある」
アルヴィン様は、静かにそう答えた。
夕方、旅立ちの荷物をまとめながら、私はエリナを抱きしめた。
「行ってきます。……いい子にしていてくださいね」
エリナは、まだ言葉もわからないだろうに、じっと私を見つめていた。
その瞳に、私は思わず涙ぐみそうになった。
「必ず、無事に戻る」
カイルが、そっと私の肩に手を置いた。
「はい。……エリナのためにも」
窓の外で、フェンが静かに空を見上げていた。
その横顔には、これまで見たことのない、深い決意が浮かんでいた。
「リヴァ。……もう少しだけ、待っていてくれ」
その呟きに、私は静かに頷いた。
夜明けとともに、私たちは薬草園を発つことになった。
新しい旅の始まりに、私は静かに気持ちを引き締めた。
(第208話へ続く)




