第205話「遠方からの便り」
エリナが生まれて、二月が過ぎた。
寝返りを打てるようになったエリナは、日に日に表情も豊かになっていた。
「今日は、よく笑いますね」
私がそう言うと、エリナは小さな声で「あー」と応えるように笑った。
「本当だ。……可愛いな」
カイルも、目を細めてその様子を見守っていた。
穏やかな昼下がり、ナーシャが一通の手紙を届けに来た。
「エリーゼ様、レイアード王国から届きました」
差出人は、あのハルト殿だった。
私は懐かしさを覚えながら、封を開けた。
『エリーゼ様。ご出産、心よりお祝い申し上げます』
『こちらでは、湿地熱の再発もなく、村の人々も元気に過ごしております』
その一文に、私はほっと胸をなで下ろした。
『ですが、一つ気になる報告がございます』
その先の文面に、私は思わず眉を寄せた。
『湿地のさらに奥、深い森の周辺で、原因不明の異変が起きているとの噂が届いております』
『動物たちが姿を消し、木々が枯れ始めているとか。……まだ確証はありませんが、念のためお耳に入れておきたく』
その文章を読み終えて、私はしばらく黙り込んだ。
「どうした」
カイルが、私の様子に気づいて尋ねた。
「レイアードの、森の奥で。……何か、異変が起きているそうです」
私はそう説明しながら、手紙をカイルに渡した。
カイルは真剣な顔で文面に目を通した。
「まだ、確証はないようだな」
「はい。……でも、少し気になります」
窓の外で、フェンがふと耳を立てた。
「深い森、か」
「フェン、何か知っているのですか」
私が尋ねると、フェンはしばらく黙って、遠い目をした。
「……いや。まだ、確かなことは言えん」
その様子に、私はかすかな胸騒ぎを覚えた。
「もし何かあれば、また力になりたいと思います」
私がそう言うと、カイルは静かに頷いた。
「ああ。……その時は、俺たちも一緒だ」
その言葉に、私は静かに微笑んだ。
まだ、何が起きているのかはわからない。
けれど、遠い森の異変が、静かに私たちの日常に影を落とし始めていた。
エリナを抱きながら、私はその小さな温もりを、より一層大切に感じていた。
(第206話へ続く)




