第204話「初めての外出」
エリナが生まれて、一月が過ぎた。
「今日は、天気もいいですし。……少し、外の空気を吸わせてあげましょうか」
私がそう言うと、カイルは少し心配そうな顔をした。
「大丈夫か。……まだ早くはないか」
「オリガさんにも、確認しました。……短い時間なら、問題ないそうです」
私がそう答えると、カイルはようやく頷いた。
薄い布に包んだエリナを抱いて、私たちは薬草園をゆっくりと歩いた。
風が柔らかく、日差しも穏やかな昼下がりだった。
「見てください、エリナ。……ここが、あなたの生まれた場所です」
私がそう囁くと、エリナは不思議そうに、大きな瞳を瞬かせた。
その様子に、私とカイルは顔を見合わせて微笑んだ。
畑仕事をしていたソフィが、私たちに気づいて駆け寄ってきた。
「エリーゼ様! エリナちゃん、お散歩ですか」
「はい。……初めての外出です」
私が答えると、ソフィは目を輝かせて覗き込んだ。
「わあ……! 前より、少し大きくなった気がします」
「そうですね。……日に日に、成長しています」
その言葉に、ソフィは感慨深げに頷いた。
少し離れた場所から、フェンがゆっくりと近づいてきた。
「今日は、大人しいな」
フェンがそう言うと、まるで応えるように、エリナが小さく声を上げた。
「あ……」
「呼ばれた気がしたぞ」
フェンは満足げに、鼻先をそっと近づけた。
エリナは、その大きな鼻先に向かって、小さな手を伸ばした。
「懐いているようだな」
カイルが笑いながら言った。
「フェンの匂いを、覚えているのかもしれません」
私がそう答えると、フェンは照れくさそうに視線をそらした。
夕暮れ近く、私たちは薬草園の丘に腰を下ろして、沈む夕日を眺めた。
「こうして、家族みんなで過ごせる時間が、何よりの宝物ですね」
私がそう呟くと、カイルは静かに頷いた。
「ああ。……これからも、ずっと」
その言葉に、私は静かに微笑んだ。
遠くの空に、一羽の鳥が飛んでいくのが見えた。
その先に、まだ見ぬ未来が広がっているような、そんな予感がした。
穏やかな日々は、これからも続いていく。
私はその確かな幸せを、静かに胸に刻んだ。
(第205話へ続く)




