第203話「眠れない夜」
エリナが生まれてから、二週間が過ぎた。
昼間は穏やかに眠っていることが多いのに、夜になると決まって泣き出す。
「ふぇ……ふぇ、ぇぇん……」
その小さな泣き声に、私は眠い目をこすりながら身体を起こした。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
抱き上げてあやしても、なかなか泣き止まない。
隣で眠っていたカイルも、すぐに目を覚ました。
「代わろう」
「いえ、大丈夫です」
私がそう言っても、カイルは構わず起き上がった。
「お前も、休まないと身体が持たない」
彼はそっとエリナを受け取り、慣れない手つきであやし始めた。
「よし、よし」
その不器用な仕草に、私は思わず微笑んだ。
しばらくすると、エリナの泣き声が少しずつ小さくなっていった。
「……眠った、か」
カイルが、そっと囁いた。
小さな寝顔を見つめる彼の横顔は、いつになく穏やかだった。
「あなたは、良い父親になりますね」
私がそう言うと、カイルは少し照れたように目をそらした。
「まだ、わからない。……不安なことばかりだ」
「そうですね。……私もです」
私は素直に頷いた。
「でも、二人でなら、大丈夫だと思います」
その言葉に、カイルは静かに頷いた。
窓の外から、フェンの気配がした。
「まだ、起きているのか」
低い声とともに、大きな影が窓辺に現れた。
「はい。……エリナが、少しぐずっていました」
「聖獣の耳には、丸聞こえだったぞ」
フェンは呆れたように言いながらも、その声には優しさがあった。
「子育てというのは、思ったより大変そうだな」
「はい。……でも、幸せです」
私がそう答えると、フェンは静かに笑った。
「……そうか」
朝が近づき、空がわずかに白み始めた頃、エリナは静かな寝息を立てていた。
私とカイルは、その小さな寝顔を並んで見つめていた。
「こうしていると、時間が経つのを忘れますね」
「ああ」
カイルが、そっと私の肩に頭を預けた。
眠れない夜も、こうして分かち合えることが、何よりの幸せだった。
新しい家族との日々は、まだ始まったばかりだった。
(第204話へ続く)




