第201話「産声」
産婆のオリガさんが到着した頃には、痛みの間隔は、目に見えて狭まっていた。
「エリーゼ様、落ち着いて。……大きく息を吸って」
オリガさんの落ち着いた声に、私は必死に頷いた。
寝室に運ばれ、マーサさんとナーシャが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
「カイル様は、外でお待ちください」
オリガさんにそう言われ、カイルは一瞬躊躇した。
「エリーゼ、大丈夫か」
「はい……。行ってきます」
私はそう答えながら、彼の手を強く握った。
「必ず、無事に会いましょう」
その言葉に、カイルは静かに頷いて、部屋を後にした。
それからの時間は、痛みと呼吸の繰り返しだった。
「はい、いきんで!」
オリガさんの声に合わせて、私は全身の力を込めた。
汗が額を伝い、視界が滲む。それでも、私は必死に前を向いた。
——この痛みの先に、あの子がいる。
その一心で、私は何度も、何度も力を込め続けた。
どれほど時間が経っただろうか。
やがて、部屋に、小さく高い泣き声が響いた。
「元気な、女の子ですよ」
オリガさんの声に、私は震える手を伸ばした。
小さな身体が、そっと私の胸に乗せられる。
真っ赤な顔で、力いっぱい泣いているその子は、確かに私の腕の中にいた。
「……エリナ」
私は、その名前を、静かに呼んだ。
涙が、止めどなくあふれてきた。
喜びとも安堵ともつかない感情が、胸いっぱいに広がっていく。
扉の外で待っていたカイルが、飛び込むように入ってきた。
「エリーゼ、大丈夫か……!」
彼は私と、腕の中の小さな命を見て、言葉を失った。
「見てください。……エリナです」
私がそう言うと、カイルはゆっくりと近づき、震える手で娘の頬に触れた。
「……小さいな」
その一言に、涙声が滲んでいた。
「本当に、小さい」
カイルは何度も、そう繰り返した。
外で待っていたフェンが、そっと部屋の入り口から顔を覗かせた。
「無事、生まれたか」
「はい。……女の子です」
私が答えると、フェンはゆっくりと近づいて、赤ん坊の匂いを確かめた。
「……確かに、強い気配だ」
フェンは満足げに、静かに頷いた。
「よくやった、エリーゼ」
その短い言葉に、私は静かに微笑んだ。
窓の外には、朝の光が差し込み始めていた。
新しい命の誕生とともに、薬草園に、また一つの物語が始まっていた。
(第202話へ続く)




