↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
201/240

第201話「産声」

産婆のオリガさんが到着した頃には、痛みの間隔は、目に見えて狭まっていた。


「エリーゼ様、落ち着いて。……大きく息を吸って」


 オリガさんの落ち着いた声に、私は必死に頷いた。


 寝室に運ばれ、マーサさんとナーシャが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。


「カイル様は、外でお待ちください」


 オリガさんにそう言われ、カイルは一瞬躊躇した。


「エリーゼ、大丈夫か」


「はい……。行ってきます」


 私はそう答えながら、彼の手を強く握った。


「必ず、無事に会いましょう」


 その言葉に、カイルは静かに頷いて、部屋を後にした。


 それからの時間は、痛みと呼吸の繰り返しだった。


「はい、いきんで!」


 オリガさんの声に合わせて、私は全身の力を込めた。


 汗が額を伝い、視界が滲む。それでも、私は必死に前を向いた。


 ——この痛みの先に、あの子がいる。


 その一心で、私は何度も、何度も力を込め続けた。


 どれほど時間が経っただろうか。


 やがて、部屋に、小さく高い泣き声が響いた。


「元気な、女の子ですよ」


 オリガさんの声に、私は震える手を伸ばした。


 小さな身体が、そっと私の胸に乗せられる。


 真っ赤な顔で、力いっぱい泣いているその子は、確かに私の腕の中にいた。


「……エリナ」


 私は、その名前を、静かに呼んだ。


 涙が、止めどなくあふれてきた。


 喜びとも安堵ともつかない感情が、胸いっぱいに広がっていく。


 扉の外で待っていたカイルが、飛び込むように入ってきた。


「エリーゼ、大丈夫か……!」


 彼は私と、腕の中の小さな命を見て、言葉を失った。


「見てください。……エリナです」


 私がそう言うと、カイルはゆっくりと近づき、震える手で娘の頬に触れた。


「……小さいな」


 その一言に、涙声が滲んでいた。


「本当に、小さい」


 カイルは何度も、そう繰り返した。


 外で待っていたフェンが、そっと部屋の入り口から顔を覗かせた。


「無事、生まれたか」


「はい。……女の子です」


 私が答えると、フェンはゆっくりと近づいて、赤ん坊の匂いを確かめた。


「……確かに、強い気配だ」


 フェンは満足げに、静かに頷いた。


「よくやった、エリーゼ」


 その短い言葉に、私は静かに微笑んだ。


 窓の外には、朝の光が差し込み始めていた。


 新しい命の誕生とともに、薬草園に、また一つの物語が始まっていた。


(第202話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。