第200話「予感」
名前を決めてから、また一月が過ぎた。
お腹はさらに大きくなり、歩くのも少しずつ大変になっていた。
「無理をするな」
カイルは相変わらず、私の側を離れようとしなかった。
「大丈夫です。……でも、ありがとうございます」
私はそう言いながら、縁側にゆっくりと腰を下ろした。
薬草園には、いつもの穏やかな時間が流れていた。
ソフィが候補生たちを連れて、薬草の手入れをしている。学び舎からも、定期的に報告の手紙が届くようになっていた。
「エリーゼ様、お茶をどうぞ」
ナーシャが、湯気の立つカップを運んできた。
「ありがとう、ナーシャ」
私はカップを受け取りながら、ふと自分の身体の変化に気づいた。
朝から、時折お腹の奥に、鈍い痛みを感じていた。
最初は、ただの張りだと思っていた。けれど、その痛みは、少しずつ間隔を狭めているように思えた。
「エリーゼ様、顔色が」
ナーシャが心配そうに、私の様子を覗き込んだ。
「少し……お腹が張るような気がします」
私がそう言うと、ナーシャの表情が引き締まった。
「マーサさんを呼んできます!」
その声に、カイルもすぐに気づいて駆け寄ってきた。
「大丈夫か」
「はい。……まだ、痛みは弱いです。でも」
私は静かに、自分の直感を口にした。
「もしかしたら、そろそろかもしれません」
その言葉に、カイルの顔が一瞬強張った。
「産婆殿を呼ぶ。……フェン!」
カイルの声に応えて、フェンがすぐに姿を現した。
「呼んだか」
「村まで、すぐに産婆殿を呼んできてほしい」
「わかった」
フェンは即座に駆け出していった。その背中は、いつもより速く、風のように駆けていく。
私はゆっくりと呼吸を整えながら、お腹にそっと手を当てた。
——もうすぐ、会えるのですね。
その予感は、痛みと同時に、確かな喜びを伴っていた。
カイルが、震える手で私の手を握った。
「怖くないか」
「少しだけ。……でも、あなたがいてくれるので」
私はそう答えて、静かに微笑んだ。
薬草園に、これから訪れる大きな瞬間への静かな緊張が満ちていく。
新しい命が、まさに生まれようとしていた。
(第201話へ続く)




