第199話「名前を考える夜」
お腹もすっかり大きくなり、出産までの日々は、あと二月ほどとなっていた。
「そろそろ、名前を考えないとな」
ある夜、夕食を終えたあと、カイルがふとそう切り出した。
「そうですね。……男の子と、女の子、両方考えておきましょうか」
私がそう答えると、カイルは少し考え込んだ。
「女の子なら、母の名を継がせたい」
その言葉に、私は静かに耳を傾けた。
「お母様の名前は、何とおっしゃるのですか」
「エリナ、という名だった」
カイルの声には、懐かしさと、少しの切なさが滲んでいた。
「優しい人だった。……お前とどこか似ている」
「光栄です」
私は静かに微笑んだ。
「エリナ。……素敵な名前ですね」
「では、男の子なら」
カイルが尋ねると、私はしばらく考えて言った。
「父の名を、思い出しました」
「お前の父君の名は」
「レオンといいます。……厳しい人でしたが、最後まで私を心配してくれていました」
その記憶を辿りながら、私はふと涙ぐみそうになった。
「レオン、か。……良い名だ」
カイルが静かに頷いた。
そのとき、庭先からフェンの声がした。
「随分と、賑やかな相談をしているな」
窓辺に、大きな影が見えた。
「フェンも、何か案がありますか」
私が尋ねると、フェンはしばらく考える素振りを見せた。
「……俺の一族には、代々受け継がれる名がある」
「聞いても?」
「ルーンという。……守り抜く者、という意味だ」
その名に、私とカイルは顔を見合わせた。
「男の子なら、ミドルネームにいかがでしょう」
私が提案すると、フェンは満足そうに鼻を鳴らした。
「悪くない」
「レオン・ルーン。……良い響きです」
私がそう呟くと、カイルも頷いた。
「女の子なら、エリナ。男の子なら、レオン・ルーン」
「決まりですね」
私たちは、静かに顔を見合わせて笑った。
まだ見ぬ我が子の名前を口にするたび、実感が少しずつ増していく。
「早く、その名で呼びたいな」
カイルが、そっと私のお腹に触れながら呟いた。
「はい。……あと少しです」
窓の外には、穏やかな月明かりが差し込んでいた。
新しい命を迎える準備が、静かに、けれど確かに整っていく夜だった。
(第200話へ続く)




