第198話「初めての胎動」
お腹が目立ち始めたのは、それから二月ほど経った頃だった。
「随分、大きくなりましたね」
マーサさんが、優しく私のお腹に触れた。
「ええ。……最近は、動きも感じるようになりました」
私がそう答えると、マーサさんは目を細めた。
「それは、楽しみですね」
ある夜、薬草園の縁側で涼んでいると、お腹の奥で、ぽこん、と小さな感覚があった。
「……あ」
私は思わず、お腹に手を当てた。
もう一度、ぽこん、と。
「エリーゼ、どうした」
隣にいたカイルが、すぐに気づいて尋ねた。
「動きました。……今、はっきりと」
私がそう言うと、カイルの顔色が変わった。
「触っても、いいか」
「はい」
カイルは、そっと私のお腹に手を添えた。
しばらく、静かな時間が流れた。
「……本当に、動いた」
カイルの声が、微かに震えていた。
次の瞬間、また小さな動きがあった。
「感じましたか」
「ああ……! 感じた」
彼はそう言って、珍しく声を弾ませた。
その顔は、いつもの冷静な彼からは想像もつかないほど、無邪気に輝いていた。
「元気な子ですね」
私が笑うと、カイルも柔らかく微笑んだ。
「ああ。……きっと、お前に似て強い子だ」
少し離れた場所で、フェンが耳をぴくりと動かした。
「騒がしいと思えば、そんなことか」
そう言いながらも、フェンは静かに近づいてきて、私のお腹に鼻先を寄せた。
「……ふむ。確かに、力強い気配がする」
「フェンにもわかるのですか」
「聖獣だからな」
フェンは満足げに頷いた。
「この子は、きっと逞しく育つ」
その言葉に、私は静かに笑みをこぼした。
夜が更けても、私はしばらく、お腹の小さな動きを感じ続けていた。
まだ会えない我が子が、確かにここで生きている。
その事実が、これまでにない深い幸せを運んできた。
「早く、会いたいな」
カイルが、そっと呟いた。
「はい。……私も、同じ気持ちです」
薬草園の夜空に、星々が静かに瞬いていた。
新しい命の気配とともに、穏やかな時間が流れていく。
その温もりを、私は胸いっぱいに感じていた。
(第199話へ続く)




