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第180話「はじめてのひとり」

ある日、近くの村から、使いの者が駆け込んできた。


「子どもが熱を出して……! どなたか、来ていただけませんか」


 その切羽詰まった声に、私はすぐに支度を始めようとした。



「エリーゼ様」


 そのとき、ソフィが私の前に進み出た。


「私に、行かせていただけませんか」


 そのまっすぐな瞳に、私は少し驚いた。



「一人で、大丈夫ですか」


「はい。……症状を聞く限り、単純な風邪だと思います。教えていただいた通りに対処すれば」


 ソフィの声は、まだ少し震えていた。けれど、その意志は固かった。



 私は少しの間、考えて。


「わかりました。……行ってらっしゃい」


 その許可に、ソフィの顔がぱっと明るくなった。


「必ず、治してみせます!」



 薬箱を抱えて、ソフィは一人、村へと向かっていった。


 その小さな背中を見送りながら、私は少しの不安と、大きな期待を感じていた。



「大丈夫だろうか」


 カイルが心配そうに呟いた。


「大丈夫です」


 私は静かに答えた。


「彼女はもう。……独り立ちする準備ができています」



 夕方、ソフィが疲れた様子で帰ってきた。


 その顔には——達成感があふれていた。


「エリーゼ様! 熱、下がりました!」



「よかった……! 本当に、よく頑張りましたね」


 私が駆け寄って、その手を握ると、ソフィの目に涙が浮かんだ。


「怖かったです。……でも、あなたに教わったことを信じて」



「一人でもできるって。……証明できました」


 その言葉に、私の胸がじんと熱くなった。


 七年前のあの日。私もこうして、一つずつ自信を積み重ねてきたのだ。



「ソフィ」


 フェンが静かに、彼女に近づいた。


「よくやった」


 その短い言葉に、ソフィは大きく頷いた。



「ありがとう、ございます、フェン」


 彼女はその大きな身体に、抱きついた。


 フェンはいつものように、少し照れくさそうに、それを受け止めた。



 夜、私はソフィの成長した姿を思い返しながら。


 ——教えるということは、こんなにも幸せなことなのだと、知った。


 薬草園に、また一つ新しい、確かな絆が生まれていた。


(第181話へ続く)

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