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第179話「季節の便り」

父親が帰ってから、ソフィは以前にも増して、熱心に薬草学に打ち込んでいた。


「エリーゼ様、この薬草の調合法を教えてください!」


 その瞳の輝きに、私は思わず微笑んだ。



「ソフィさんは、本当に熱心ですね」


 私が言うと、彼女は少し照れくさそうに笑った。


「お父さんに認めてもらうためにも。……絶対に諦めません」


 その決意の言葉が、頼もしかった。



 ある朝、王都から一通の手紙が届いた。


 差出人は、アルヴィン様だった。


「エリーゼ様に、宛てて」


 ナーシャが大切そうに、手紙を渡してくれた。



 私はその場で、封を開いた。


『久しぶりだね、エリーゼ殿。この国はあれから、少しずつ良い方向へ進んでいる』


『領民との対話の場を増やした。……最初は戸惑いもあったが。徐々に成果が見え始めている』



『先日は、グレタの娘の墓前で、正式な慰霊を執り行った。……彼女も少しは、心が休まったようだ』


 その一文に、私は胸が熱くなった。


 グレタの、あの悲しい瞳を思い出す。



『そうそう、モルデカイの後任には、若く誠実な魔導士を任命した。……あの過ちを繰り返さぬよう、慎重に選んだつもりだ』


『いつか、また薬草園に遊びに行きたいものだ。……その時は、噂の聖獣殿にもよろしく伝えてくれ』



 手紙の最後に、こう締めくくられていた。


『友人として。あなたの変わらぬ活躍を願っている。——アルヴィン』


 私はその手紙を、そっと胸に抱いた。



「アルヴィン様、元気そうですね」


 私が言うと、カイルが覗き込むように、手紙を見た。


「兄上らしい、律儀な手紙だ」


 その声には、隠しきれない安堵が滲んでいた。



「フェン、あなたにもよろしくと」


 私が伝えると、フェンは、ふん、と鼻を鳴らした。


「……あの男も、少しは成長したようだな」


 その言葉には、確かな信頼がこもっていた。



 夕方、ソフィがその日の修行の成果を、見せに来た。


「エリーゼ様、見てください! 一人で解熱剤を調合できました!」


 その誇らしげな表情に、私は心から拍手を送った。



「素晴らしいです、ソフィさん」


 私の言葉に、彼女は満面の笑みを浮かべた。


 薬草園の日々は、こうして少しずつ進んでいく。


 遠い王都の変化と。ここにある確かな成長と。


 すべてが、静かにつながっていた。


(第180話へ続く)

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