第178話「迎えに来た人」
ソフィが薬草園に来て、半月ほどが過ぎた頃。
門の前に、見知らぬ初老の男性が立っているのが見えた。
その姿を見た瞬間、ソフィの顔がさっと青ざめた。
◆
「お父さん……」
ソフィが震える声で呟いた。
「なぜ、ここに」
その男性は疲れ切った様子で、深く頭を下げた。
◆
「ソフィ。……村に帰ってきなさい」
彼の声は厳しかった。
「お前がいなくなって、母さんがどれだけ心配したか」
ソフィは俯いたまま、何も答えなかった。
◆
「失礼ですが」
私は二人の間に、そっと入った。
「ソフィさんのお父様、でしょうか。私は、エリーゼと申します」
「ああ……。あなたが噂の。娘が、大変お世話になりました」
◆
彼は丁寧に頭を下げた。けれど、その表情はまだ硬かった。
「娘は村を、無断で飛び出しました。……薬師の見習いなど、女に務まるものではありません」
その言葉に、ソフィがびくりと肩を震わせた。
◆
「お父さん」
ソフィが勇気を振り絞るように、口を開いた。
「私、薬草学を学びたいのです。……いつか、この村みたいに病で苦しむ人を、助けたくて」
◆
「そんな夢みたいな話は」
父親が遮った。
「お前には務まらない。……早く家に戻って、嫁入りの準備を」
その頭ごなしな言葉に、私は静かに口を挟んだ。
◆
「お父様」
私はまっすぐに彼を見た。
「ソフィさんはこの半月、本当によく頑張っています。……失敗しても諦めず、学ぼうとするその姿勢は」
「立派な薬師の素質だと、私は思います」
◆
父親はしばらく黙っていた。
「……あなたは、聖獣の伴侶どのだと聞いた。そのあなたがそう言うのなら」
彼の声が、少し揺れた。
◆
「お父さん」
ソフィが涙ぐみながら続けた。
「一度だけ、私の本気を見てください。……お願いです」
そのまっすぐな瞳に、父親は長い沈黙のあと。
◆
「……わかった」
彼は静かに頷いた。
「半年だ。……半年で成果が見えなければ、村に帰ってきなさい」
「はい……! ありがとうございます、お父さん!」
ソフィの顔が、ぱっと輝いた。
◆
父親が去っていく、その背中を見送りながら。
私はソフィの肩に、そっと手を置いた。
「頑張りましょう。……半年後、お父様に胸を張れるように」
「はい!」
◆
その力強い返事に、フェンが静かに呟いた。
「……悪くない決意だ」
薬草園の夕暮れに、新しい目標が、静かに生まれていた。
(第179話へ続く)




