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第178話「迎えに来た人」

ソフィが薬草園に来て、半月ほどが過ぎた頃。


 門の前に、見知らぬ初老の男性が立っているのが見えた。


 その姿を見た瞬間、ソフィの顔がさっと青ざめた。



「お父さん……」


 ソフィが震える声で呟いた。


「なぜ、ここに」


 その男性は疲れ切った様子で、深く頭を下げた。



「ソフィ。……村に帰ってきなさい」


 彼の声は厳しかった。


「お前がいなくなって、母さんがどれだけ心配したか」


 ソフィは俯いたまま、何も答えなかった。



「失礼ですが」


 私は二人の間に、そっと入った。


「ソフィさんのお父様、でしょうか。私は、エリーゼと申します」


「ああ……。あなたが噂の。娘が、大変お世話になりました」



 彼は丁寧に頭を下げた。けれど、その表情はまだ硬かった。


「娘は村を、無断で飛び出しました。……薬師の見習いなど、女に務まるものではありません」


 その言葉に、ソフィがびくりと肩を震わせた。



「お父さん」


 ソフィが勇気を振り絞るように、口を開いた。


「私、薬草学を学びたいのです。……いつか、この村みたいに病で苦しむ人を、助けたくて」



「そんな夢みたいな話は」


 父親が遮った。


「お前には務まらない。……早く家に戻って、嫁入りの準備を」


 その頭ごなしな言葉に、私は静かに口を挟んだ。



「お父様」


 私はまっすぐに彼を見た。


「ソフィさんはこの半月、本当によく頑張っています。……失敗しても諦めず、学ぼうとするその姿勢は」


「立派な薬師の素質だと、私は思います」



 父親はしばらく黙っていた。


「……あなたは、聖獣の伴侶どのだと聞いた。そのあなたがそう言うのなら」


 彼の声が、少し揺れた。



「お父さん」


 ソフィが涙ぐみながら続けた。


「一度だけ、私の本気を見てください。……お願いです」


 そのまっすぐな瞳に、父親は長い沈黙のあと。



「……わかった」


 彼は静かに頷いた。


「半年だ。……半年で成果が見えなければ、村に帰ってきなさい」


「はい……! ありがとうございます、お父さん!」


 ソフィの顔が、ぱっと輝いた。



 父親が去っていく、その背中を見送りながら。


 私はソフィの肩に、そっと手を置いた。


「頑張りましょう。……半年後、お父様に胸を張れるように」


「はい!」



 その力強い返事に、フェンが静かに呟いた。


「……悪くない決意だ」


 薬草園の夕暮れに、新しい目標が、静かに生まれていた。


(第179話へ続く)

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