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第177話「ソフィとフェン」

薬草園に来て数日が過ぎたが、ソフィはまだ、フェンに慣れずにいた。


「あ、あの、大きな……聖獣様、ですよね」


 フェンの姿を見るたび、ソフィは少し身をこわばらせる。



「そんなに怖がらなくても、大丈夫ですよ」


 私が言うと、ソフィは恐る恐る頷いた。


「わかってはいるのですが……。あんなに大きくて」


 その声は、まだ震えていた。



 そんな、ある日のこと。


 薬草を運ぼうとしたソフィが、足を滑らせた。


「きゃっ……!」


 大きな籠を抱えたまま、地面に倒れ込みそうになる。



 その瞬間。


 さっと、フェンが身体を滑り込ませた。


 ふかふかの毛並みが、ソフィの落下を優しく受け止める。



「……大丈夫か」


 フェンの低い声に、ソフィは目を丸くした。


「あ……ありがとう、ございます」


 彼女は恐る恐る、その毛並みに触れた。



「わ……あったかい」


 ソフィの声が、思わずこぼれた。


「それに、ふわふわで……」


 その素直な感想に、フェンは少し照れくさそうに、目を逸らした。



「べつに、大したことじゃない」


 そう言いながらも、フェンはソフィを立たせるまで、その場を動かなかった。


 その様子を見ていた私は、思わず微笑んだ。



 それから、ソフィは少しずつ、フェンに慣れていった。


 休憩の時間には、その大きな身体に寄りかかって、休むようになった。


「フェン様、今日もお疲れ様です」



「様、はいらん」


 フェンがぶっきらぼうに答える。


「フェンさん、では?」


「フェンでいい」


 そのやり取りに、私は思わず笑ってしまった。



 ある夕暮れ、ソフィがフェンの毛並みに顔を埋めながら呟いた。


「フェン様……フェンは。すごく優しいですね」


「……別に」


 フェンはそっぽを向きながらも、その身体を引かなかった。



「最初は怖かったけれど。……今は、大好きです」


 ソフィの素直な言葉に、フェンの尻尾が、わずかに揺れた。


「……調子のいいやつだ」


 その声は、まんざらでもなさそうだった。



 薬草園の夕暮れに、もふもふの聖獣と、その新しい友人の姿があった。


 私はその微笑ましい光景を、静かに見守った。


 ——こうして、家族の輪が、また一つ広がっていく。


(第178話へ続く)

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