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第176話「はじめての失敗」

ソフィが薬草園に来て、最初の朝。


 私は彼女を、薬草畑へと案内した。


「まずは、薬草の見分け方から覚えましょう」



「はい!」


 ソフィは目を輝かせながら頷いた。


 その意気込みに、私は思わず微笑んだ。



「これは、熱冷ましに使う薬草です。……葉の形と匂いを、よく覚えてください」


 私が一つ一つ、丁寧に説明していく。


 ソフィは真剣な表情で、メモを取りながら聞き入っていた。



「では、実際に摘んでみましょう」


 私が言うと、ソフィは意気込んで畑に踏み込んだ。


 そして——勢い余って、大切な薬草の苗を踏みつぶしてしまった。



「あっ……!」


 ソフィの顔が、みるみる青ざめていく。


「ご、ごめんなさい……! 私、なんてことを……」


 その声は、今にも泣き出しそうだった。



「大丈夫ですよ」


 私は優しく声をかけた。


「苗は、また育てられます。……それより、怪我はありませんか」


「え……? 怒らないのですか」



 ソフィは驚いた様子で、私を見た。


「怒っても、苗は戻りません。……それより、次から気をつければいいのです」


 私が答えると、ソフィの目に、また涙が浮かんだ。



「私……前の村では。失敗すると、いつも怒鳴られていました」


 その言葉に、私は静かに胸を痛めた。


「だから、失敗するのが怖くて」



「ここでは、大丈夫です」


 私は彼女の手を、そっと取った。


「失敗は、誰にでもあります。……大切なのは、そこから何を学ぶかです」



 その言葉に、ソフィはしばらく黙っていた。


 そして、静かに頷いた。


「はい……。もう一度、やってみます」


 その声には、さっきよりも少しだけ、落ち着きが戻っていた。



 慎重に、慎重に。ソフィは薬草を、一本摘み取った。


「できました……!」


 その顔に、初めての達成感が広がっていた。



「よく、できました」


 私が褒めると、ソフィははにかむように笑った。


 その笑顔に、私も思わず頬が緩んだ。



 夕方、フェンが様子を見に来た。


「どうだ、初日は」


「はい。……たくさん失敗しました。でも」


 ソフィはまっすぐに答えた。


「たくさん学びました」



 そのまっすぐな言葉に、フェンは少し意外そうな顔をして。


 それから、小さく頷いた。


「……悪くない答えだ」


 薬草園の夕暮れに、新しい成長の物語が、静かに始まっていた。


(第177話へ続く)

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