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第173話「回復の朝」

夜通し、私たちは村人たちの看病を続けた。


 薬を一人一人に飲ませて。熱を拭い、様子を見守る。長い長い夜だった。



「エリーゼ様、少し休んでください」


 カイルが私の肩に、そっと手を置いた。


「いえ、まだ……」


「無理をすれば、お前が倒れる。……少しだけでいい」



 そう言われて、私はようやく自分の疲れに気づいた。


 集会所の隅で、少しだけ目を閉じる。


 ——どうか、みんなが助かりますように。


 そう願いながら、私はいつしか眠りに落ちていた。



「エリーゼ様!」


 声にはっと目を覚ますと、窓の外はすでに明るくなっていた。


 私を呼んだのは、昨夜のあの母親だった。その顔には、涙と笑顔が同時に浮かんでいた。



「熱が……熱が、下がりました!」


 私は慌てて駆け寄った。


 子どもの額に触れると、確かに昨夜の燃えるような熱は引いていた。


「良かった……!」



 その声を皮切りに、集会所のあちこちから、次々と声が上がった。


「こっちも、下がっています!」


「発疹が、薄くなってきた!」


 村人たちの安堵の声が、朝の光の中に響き渡った。



「先生……いえ、エリーゼ様」


 村長が深く頭を下げた。


「なんと、お礼を申し上げればいいか」


「お礼なんて」


 私は首を振った。



「みなさんが無事なら。……それだけで、十分です」


 私が答えると、村長は震える声で言った。


「本当に、ありがとうございます……!」


 その周りに村人たちが集まってきて、口々に感謝の言葉を述べていく。



「フェン様も、カイル様も。……本当に、ありがとうございました」


 フェンは少し照れくさそうに、鼻を鳴らした。


「礼を言うのは、エリーゼにだけでいい。……薬を作ったのは、あいつだ」



「いえ」と私は二人を見た。「三人で成し遂げたことです」


 その言葉に、カイルが静かに微笑んだ。フェンも満更でもなさそうに、目を細めた。



 数日後、村人たちの容態がすっかり落ち着いたのを確認して。


 私たちは帰り支度を始めた。


 村の人々が総出で、見送りに来てくれた。



「また、いつでも。……何かあれば、頼ってください」


 私が言うと、村長は深く頷いた。


「はい。……そして、いつか、あの実り豊かな薬草園に、恩返しに伺います」


 その言葉に、私は微笑んだ。



 フェンの背に乗り、私たちは湿地の村を後にした。


 ——困っている人を助けられた。その静かな、確かな喜びが、胸に広がっていた。


 薬草園への帰り道。夕焼けがいつものように、私たちを照らしていた。


(第174話へ続く)

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