表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
170/182

第170話「収穫祭の夜」

王都から帰って、半月が過ぎた。


 薬草園には、すっかりいつもの穏やかな時間が戻っていた。今日は村の収穫祭。畑の実りを、みんなで祝う日だった。



「エリーゼ様、これ、見てください!」


 ナーシャが大きなかぼちゃを抱えて、駆けてきた。


「今年一番の出来です!」


「まあ、立派ですね」


 私は思わず拍手した。



 広場には、色とりどりの野菜や果物が、山と積まれていた。


 村人たちが忙しそうに料理を運び、机を並べていく。子どもたちははしゃぎながら、その周りを駆け回っていた。



「フェンは、どこですか」


 私が尋ねると、マーサさんがくすくすと笑った。


「あちらですよ。……見てごらんなさい」


 指さされた方を見て、私も思わず笑ってしまった。



 フェンは山積みの果物の傍らで、子どもたちに囲まれて、りんごを次々と口に運ばれていた。


「フェン、あーん!」


「……もう、いい。腹がいっぱいだ」


 そう言いながらも、フェンは断りきれずにいる様子だった。



「情けない姿ですね」


 私が近づいてからかうと、フェンはじろりとこちらを睨んだ。


「お前が助けに来ないから、悪い」


「ふふ、すみません」


 私は笑いながら、その隣に腰を下ろした。



 夕暮れ、収穫祭の宴が始まった。


 長い机に、料理が所狭しと並ぶ。村人たちの笑い声と、乾杯の声。楽師の奏でる、素朴な調べ。


 カイルが私の隣に、そっと座った。



「今年も、良い実りだった」


 彼は静かに言った。


「お前が来てから。……薬草園も村も、豊かになった気がする」


「私一人の力ではありません。みんなが頑張ったからです」


 私はそう答えたけれど、内心、少し誇らしかった。



「エリーゼ様!」とルカが駆け寄ってきた。「一緒に踊りましょう!」


「え、私が、ですか」


 戸惑う私の手を、ルカは構わず引いた。


 村の広場に、輪ができていく。



 見よう見まねで、私も輪に加わった。


 素朴な音楽に合わせて、みんなで手をつなぎ、くるくると回る。足がもつれて、笑いが起きる。


 そんな他愛のない時間が、こんなにも幸せだとは。



 輪の外から、カイルがその様子を、静かに見つめていた。


 その視線に気づいて、私は手招きをした。


「カイルも、来てください!」


 彼は少し驚いた顔をして。それから、苦笑しながら輪に加わった。



 夜が更けていく。


 満天の星の下、村人たちの笑い声が、いつまでも続いていた。


 フェンが私たちのそばに、大きな身体を丸めて寝そべる。


「良い祭りだったな」


「はい」


 私は静かに頷いた。


 ——穏やかな、幸せな日々が、これからも続いていく。


(第171話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ