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第167話「決戦前夜」

満月の前日。王城の一室で、私は眠れずにいた。


 窓の外には、まだ完全には満ちていない月が浮かんでいる。明日の夜、あれが丸く満ちる。



「眠れないのか」


 そっと扉が開いて、カイルが入ってきた。


「はい……。少し緊張しているのかもしれません」


 私は正直に答えた。



 カイルは私の隣に、静かに腰を下ろした。


「怖いか」


「怖い、というよりは……。大切な人たちを守れるだろうかと。それが一番」


 私の言葉に、カイルはしばらく黙っていた。



「エリーゼ」


 やがて、彼は静かに口を開いた。


「お前はいつも、誰かを守ろうとする。……だが、忘れないでほしい」


「お前自身も、守られるべき人間だということを」



 その言葉に、私の胸がじんと熱くなった。


「カイル……」


「俺が守る。フェンも、兄上も。……お前一人に背負わせはしない」


 彼の声には、揺るぎない決意がこもっていた。



 そのとき、窓の外から低い声が聞こえた。


「湿っぽい話をしているな」


 フェンが窓辺に顔を覗かせていた。


「フェン、聞いていたのですか」


「聞こえてしまっただけだ。……お前たちの声が、大きいだけだろう」



 そう言いながらも、フェンは部屋に身を滑り込ませてきた。


 大きな身体を、私の傍らに、そっと寄せる。


「案ずるな」とフェンは静かに言った。「俺たちは一人ではない」



「アルヴィンも、あの重臣たちも。……そして、薬草園のあの村の者たちも」


 フェンの声には、これまでにないあたたかさが滲んでいた。


「お前が繋いできた絆だ。……それが明日、お前を守る力になる」



 その言葉に、私は静かに頷いた。


 不安は消えなかった。けれど、その不安を一人で抱えなくていいのだと。


 隣にいる二人のあたたかさが、教えてくれていた。



「ありがとうございます、二人とも」


 私が言うと、カイルがそっと、私の手を握った。フェンがその大きな身体を、私に押し当てる。


 三人の静かな時間が、夜更けの王城の一室に流れていった。



 窓の外、月はまだ完全には満ちていない。


 けれど、明日の夜には——。


 私はその光を見つめながら、静かに心を整えていった。


 長い夜が、明けようとしていた。


(第168話へ続く)

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