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第165話「王子への密書」

グレタを見送ったあと、私たちはすぐに行動を起こした。


「アルヴィン様に、知らせなければ」


 私が言うと、カイルが頷いた。


「ああ。だが……悠長に手紙を送っている時間はない」



「俺が飛ぶ」


 フェンが静かに言った。


「今夜のうちに、王都まで。……手紙より、俺の言葉のほうが信じてもらえるだろう」


 その提案に、私は少し迷った。



「フェン、一人で大丈夫ですか」


「案ずるな」


 フェンは金色の瞳を細めた。


「モルデカイとやらが動く前に。……先手を打つ」


 その声には、揺るぎない決意がこもっていた。



 その夜、私は急いで手紙をしたためた。


『殿下へ。宮廷魔導士長モルデカイ様が、フェンを封じる術式を密かに準備しているとの、確かな情報を得ました。次の満月までに、必ずお耳に入れたく』


 震える手で、封をする。



「頼みます、フェン」


 私が手紙を託すと、フェンはそれを、そっと口にくわえた。


「すぐに戻る。……お前たちは、ここで待っていろ」


 そう言い残して、フェンは夜空へと駆け出していった。



 その背中が闇に溶けていくのを、私はじっと見送った。


 カイルがそっと、私の肩を抱いた。


「大丈夫だ。フェンは強い」


「わかっています。……でも、心配なものは心配です」



 一晩、私たちは眠れずに、フェンの帰りを待った。


 夜明け前、遠くの空に、白い影が見えた。


「フェン!」


 私が駆け寄ると、フェンは疲れた様子で、地面に身を伏せた。



「……伝えたぞ」


 フェンは息を整えながら言った。


「アルヴィンは驚いていた。……モルデカイの動きは、まったく察知していなかったようだ」


「殿下は、なんと」



「すぐに調査させると。……そして」


 フェンは少し間を置いて、続けた。


「満月の夜、王城で対策を講じる。……お前たちにも来てほしいと」


 その言葉に、私とカイルは顔を見合わせた。



「また、王都に行くのですね」


 私が呟くと、カイルが静かに頷いた。


「今度は……守るための戦いだ」


 その声には、これまでとは違う、静かな覚悟が宿っていた。



 満月まで、あと六日。


 私はフェンの疲れた身体を、そっと撫でた。


「ゆっくり休んでください。……ここからは、みんなで立ち向かいましょう」


 新しい戦いへの道が、静かに開かれていた。


(第166話へ続く)

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