第164話「老庭師の警告」
翌日の夕暮れ、薬草園の入り口に、一人の老婦人が立っていた。
質素な旅装に、深く被った頭巾。けれど、その手には、あの布と同じ王家の庭師の印が刺繍されていた。
◆
「……あなたが」
私が声をかけると、老婦人は静かに頭巾を下ろした。
深い皺の刻まれた、けれど澄んだ瞳をした、老いた女性だった。
「突然の無礼、お許しください。私は王城で庭師を務めております、グレタと申します」
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「あの花は……」
私が尋ねると、グレタは静かに頷いた。
「はい。私が蒔きました。……直接お伝えする勇気が、なかなか持てず」
「危険を承知で、あのような遠回しな伝え方を選んでしまいました」
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フェンがじっとグレタを見つめた。
「お前の匂いを覚えている。……あの庭園でのことか」
「はい」とグレタは頷いた。
「殿下とエリーゼ様のお話を。……偶然、耳にしてしまったのです」
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「私がお伝えしたかったのは」
グレタは深く息を吸った。
「宮廷魔導士長、モルデカイ様のことです。……あの方が密かに、聖獣を封じる術式を研究していると」
その名に、フェンの目が鋭く光った。
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「封じる術式……」
私は思わず声を震わせた。
「アルヴィン殿下は、ご存じないのですか」
「殿下はまだ、何も。……モルデカイ様は殿下にも隠れて、動いていらっしゃいます」
グレタは悲しげに目を伏せた。
◆
「私の娘は」
グレタは静かに続けた。
「かつて聖獣に選ばれた者でした。……ですが、モルデカイ様の先代が。その力を恐れ、封じようとし」
「娘は聖獣と引き裂かれ。……悲しみのあまり、命を落としました」
◆
その言葉に、フェンの表情が大きく変わった。
「まさか……お前の娘とは」
「はい。……あの青い花は、娘の墓に咲いていたものです」
グレタの瞳から、静かに涙がこぼれた。
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「同じ悲劇を、二度と繰り返してほしくない。……それだけの思いでした」
私はその手を、そっと握った。
「教えてくださって、ありがとうございます。……私たちが必ず、フェンを守ります」
◆
グレタは深く頭を下げた。
「モルデカイ様は、次の満月の夜に。……準備が整うと」
その言葉に、薬草園の空気が一気に張りつめた。
——次の満月まで、あと七日。
新たな戦いの足音が、静かに近づいていた。
(第165話へ続く)




