表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
164/182

第164話「老庭師の警告」

翌日の夕暮れ、薬草園の入り口に、一人の老婦人が立っていた。


 質素な旅装に、深く被った頭巾。けれど、その手には、あの布と同じ王家の庭師の印が刺繍されていた。



「……あなたが」


 私が声をかけると、老婦人は静かに頭巾を下ろした。


 深い皺の刻まれた、けれど澄んだ瞳をした、老いた女性だった。


「突然の無礼、お許しください。私は王城で庭師を務めております、グレタと申します」



「あの花は……」


 私が尋ねると、グレタは静かに頷いた。


「はい。私が蒔きました。……直接お伝えする勇気が、なかなか持てず」


「危険を承知で、あのような遠回しな伝え方を選んでしまいました」



 フェンがじっとグレタを見つめた。


「お前の匂いを覚えている。……あの庭園でのことか」


「はい」とグレタは頷いた。


「殿下とエリーゼ様のお話を。……偶然、耳にしてしまったのです」



「私がお伝えしたかったのは」


 グレタは深く息を吸った。


「宮廷魔導士長、モルデカイ様のことです。……あの方が密かに、聖獣を封じる術式を研究していると」


 その名に、フェンの目が鋭く光った。



「封じる術式……」


 私は思わず声を震わせた。


「アルヴィン殿下は、ご存じないのですか」


「殿下はまだ、何も。……モルデカイ様は殿下にも隠れて、動いていらっしゃいます」


 グレタは悲しげに目を伏せた。



「私の娘は」


 グレタは静かに続けた。


「かつて聖獣に選ばれた者でした。……ですが、モルデカイ様の先代が。その力を恐れ、封じようとし」


「娘は聖獣と引き裂かれ。……悲しみのあまり、命を落としました」



 その言葉に、フェンの表情が大きく変わった。


「まさか……お前の娘とは」


「はい。……あの青い花は、娘の墓に咲いていたものです」


 グレタの瞳から、静かに涙がこぼれた。



「同じ悲劇を、二度と繰り返してほしくない。……それだけの思いでした」


 私はその手を、そっと握った。


「教えてくださって、ありがとうございます。……私たちが必ず、フェンを守ります」



 グレタは深く頭を下げた。


「モルデカイ様は、次の満月の夜に。……準備が整うと」


 その言葉に、薬草園の空気が一気に張りつめた。


 ——次の満月まで、あと七日。


 新たな戦いの足音が、静かに近づいていた。


(第165話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ