第163話「種を蒔いた者」
翌朝、私たちはあの青い花が咲いていた場所を、もう一度詳しく調べることにした。
土をそっと掘り返してみる。すると、花の根元から、小さな布の切れ端が出てきた。
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「これは……?」
私はその布を、そっと手に取った。
古びた、けれど上質な織りの布。端には、見覚えのある小さな刺繍が施されていた。
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「この刺繍……」
カイルがその布を覗き込んで、息を呑んだ。
「王家の庭師の印だ。……王城の庭園を管理する者たちが、身につける」
その言葉に、私ははっとした。
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「王城の庭師が。……なぜ、こんな場所に」
私が呟くと、フェンが静かに鼻を鳴らした。
「思い当たる節が、ないでもない」
その口ぶりに、私とカイルは顔を見合わせた。
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「あの庭園でのことだ」
フェンは続けた。
「お前がアルヴィンと話していた、あの朝。……庭の奥に一人、様子を伺っていた者がいた」
「気配は消していたが……庭師の匂いがした」
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「では、その庭師が……」
私は考えを巡らせた。
「私たちの後を追って、この薬草園まで来た、ということですか」
「おそらくな」
フェンは頷いた。
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「だが、妙だ」
カイルが腕を組んで言った。
「もし兄上の指示なら、もっと直接的な手段を取るはずだ。……こんな遠回しな真似はしない」
その指摘に、私も頷いた。
◆
「では、誰かが。……アルヴィン様の意図とは別に」
私はゆっくりと言葉を紡いだ。
「私たちに何かを伝えようとしている、ということでしょうか」
その問いに、答える者はいなかった。
◆
「墓標の花、か」
フェンが静かに呟いた。
「悲しみを伝える花。……もし、それを選んで蒔いたのだとしたら」
その金色の瞳が、遠くを見つめた。
◆
「誰かが失ったものを。……俺たちに知らせたいのかもしれん」
その言葉に、薬草園の空気が静かに張りつめた。
布の切れ端を握りしめながら、私は思った。
——この糸をたどれば、きっと何かが見えてくる。
新しい謎が、静かに動き始めていた。
(第164話へ続く)




