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第163話「種を蒔いた者」

翌朝、私たちはあの青い花が咲いていた場所を、もう一度詳しく調べることにした。


 土をそっと掘り返してみる。すると、花の根元から、小さな布の切れ端が出てきた。



「これは……?」


 私はその布を、そっと手に取った。


 古びた、けれど上質な織りの布。端には、見覚えのある小さな刺繍が施されていた。



「この刺繍……」


 カイルがその布を覗き込んで、息を呑んだ。


「王家の庭師の印だ。……王城の庭園を管理する者たちが、身につける」


 その言葉に、私ははっとした。



「王城の庭師が。……なぜ、こんな場所に」


 私が呟くと、フェンが静かに鼻を鳴らした。


「思い当たる節が、ないでもない」


 その口ぶりに、私とカイルは顔を見合わせた。



「あの庭園でのことだ」


 フェンは続けた。


「お前がアルヴィンと話していた、あの朝。……庭の奥に一人、様子を伺っていた者がいた」


「気配は消していたが……庭師の匂いがした」



「では、その庭師が……」


 私は考えを巡らせた。


「私たちの後を追って、この薬草園まで来た、ということですか」


「おそらくな」


 フェンは頷いた。



「だが、妙だ」


 カイルが腕を組んで言った。


「もし兄上の指示なら、もっと直接的な手段を取るはずだ。……こんな遠回しな真似はしない」


 その指摘に、私も頷いた。



「では、誰かが。……アルヴィン様の意図とは別に」


 私はゆっくりと言葉を紡いだ。


「私たちに何かを伝えようとしている、ということでしょうか」


 その問いに、答える者はいなかった。



「墓標の花、か」


 フェンが静かに呟いた。


「悲しみを伝える花。……もし、それを選んで蒔いたのだとしたら」


 その金色の瞳が、遠くを見つめた。



「誰かが失ったものを。……俺たちに知らせたいのかもしれん」


 その言葉に、薬草園の空気が静かに張りつめた。


 布の切れ端を握りしめながら、私は思った。


 ——この糸をたどれば、きっと何かが見えてくる。


 新しい謎が、静かに動き始めていた。


(第164話へ続く)

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