第162話「青い花の正体」
翌朝、私はまだ薄暗いうちから、薬草園の書庫に籠っていた。
先代からの薬草図鑑を、片っ端からめくっていく。けれど、あの青い花に似たものは、どこにも載っていなかった。
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「見つかったか」
カイルが書庫を覗きに来て、尋ねた。
「いいえ……。この国の図鑑には、載っていないようです」
私は机に広げた本を、そっと閉じた。
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「フェンは、まだあの花を?」
「ええ。今朝も様子を見に行くと」
そう答えたとき、当のフェンが書庫の入り口に姿を見せた。その表情が、いつになく硬い。
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「わかったぞ」
フェンは低く言った。
「あれは……古い古い時代に、聖獣が心を通わせた者の墓標に咲く花だ」
その言葉に、私は思わず息を呑んだ。
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「墓標、ですか」
「ああ。……何百年も前、俺と同じような聖獣が伴侶を失ったとき。悲しみのあまり、大地にこの花を咲かせたという伝承がある」
フェンの声は、どこか遠くを見るようだった。
◆
「でも、なぜそれが、この薬草園に?」
私が問うと、フェンはゆっくりと首を振った。
「わからん。……だが、この花が自然に咲くことはない。誰かが意図して、種を蒔いたはずだ」
その言葉に、書庫の空気が静かに張りつめた。
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「悪意があるとは限らない」
カイルが静かに口を挟んだ。
「もしかしたら……誰かがフェンに、何かを伝えたかったのかもしれない」
その可能性に、私ははっとした。
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「伝えたかった、こと……」
私はもう一度、あの青い花を思い浮かべた。
棘のない、柔らかな花びら。悲しみを湛えながらも、どこか優しい佇まいだった。
——悪意より切実な、何かの伝言のようだった。
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「調べる価値はありそうだな」
フェンが静かに呟いた。
「この花の出所を。……そして、蒔いた者の意図を」
その金色の瞳には、警戒と同時に、かすかな興味の色も浮かんでいた。
◆
夕暮れ、薬草園の片隅で。
私はもう一度、あの青い花に目をやった。
風に揺れるその小さな花は、まるで何かを語りかけているようだった。
——この花が導く先に、何が待っているのか。
まだ、誰も知らなかった。
(第163話へ続く)




