表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
162/182

第162話「青い花の正体」

翌朝、私はまだ薄暗いうちから、薬草園の書庫に籠っていた。


 先代からの薬草図鑑を、片っ端からめくっていく。けれど、あの青い花に似たものは、どこにも載っていなかった。



「見つかったか」


 カイルが書庫を覗きに来て、尋ねた。


「いいえ……。この国の図鑑には、載っていないようです」


 私は机に広げた本を、そっと閉じた。



「フェンは、まだあの花を?」


「ええ。今朝も様子を見に行くと」


 そう答えたとき、当のフェンが書庫の入り口に姿を見せた。その表情が、いつになく硬い。



「わかったぞ」


 フェンは低く言った。


「あれは……古い古い時代に、聖獣が心を通わせた者の墓標に咲く花だ」


 その言葉に、私は思わず息を呑んだ。



「墓標、ですか」


「ああ。……何百年も前、俺と同じような聖獣が伴侶を失ったとき。悲しみのあまり、大地にこの花を咲かせたという伝承がある」


 フェンの声は、どこか遠くを見るようだった。



「でも、なぜそれが、この薬草園に?」


 私が問うと、フェンはゆっくりと首を振った。


「わからん。……だが、この花が自然に咲くことはない。誰かが意図して、種を蒔いたはずだ」


 その言葉に、書庫の空気が静かに張りつめた。



「悪意があるとは限らない」


 カイルが静かに口を挟んだ。


「もしかしたら……誰かがフェンに、何かを伝えたかったのかもしれない」


 その可能性に、私ははっとした。



「伝えたかった、こと……」


 私はもう一度、あの青い花を思い浮かべた。


 棘のない、柔らかな花びら。悲しみを湛えながらも、どこか優しい佇まいだった。


 ——悪意より切実な、何かの伝言のようだった。



「調べる価値はありそうだな」


 フェンが静かに呟いた。


「この花の出所を。……そして、蒔いた者の意図を」


 その金色の瞳には、警戒と同時に、かすかな興味の色も浮かんでいた。



 夕暮れ、薬草園の片隅で。


 私はもう一度、あの青い花に目をやった。


 風に揺れるその小さな花は、まるで何かを語りかけているようだった。


 ——この花が導く先に、何が待っているのか。


 まだ、誰も知らなかった。


(第163話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ