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第161話「変わらない日常」

王都から帰って、一週間が過ぎた。


 薬草園の朝は、いつも通り。露に濡れた葉を摘み、薬草を選別し、カイルと並んで畑を耕す。——あの慌ただしかった王城の日々が、まるで夢のようだった。



「エリーゼ様、お荷物です!」


 ナーシャが大きな木箱を抱えて、駆けてきた。


「王都から届きました。差出人は……アルヴィン殿下、と」


 その名に、私は少し身構えた。カイルも手を止めて、こちらを見る。



 箱を開けると、中には上質な紙の束と、見たこともない美しい万年筆。


 そして、一通の手紙が添えられていた。


『先日は、良い学びを得た。礼といっては小さいが、これからも文通で意見を聞かせてほしい。——アルヴィン』



「文通、ですか」


 私が呟くと、フェンが鼻を鳴らした。


「ふん。まだ諦めてはいないようだな」


「フェン、そんな言い方をしなくても」


 私は苦笑しながら、その手紙をそっと丁寧にたたんだ。



「悪くない話だと思う」


 カイルが静かに言った。


「兄上が誰かの意見に、素直に耳を傾けるなど。……昔なら考えられなかった」


 その声には、わずかな誇らしさのようなものが滲んでいた。



 昼下がり、薬草園の手入れをしていると、村の子どもたちが駆け寄ってきた。


「エリーゼ様! フェン! 王都の話、聞かせてー!」


「聖獣様と一緒に、お城に行ったんでしょ!」


 子どもたちのきらきらした目に、私は思わず笑ってしまった。



「そうですね……。少し長い話になりますが」


 私が語り始めると、フェンが大きな身体を寝そべらせた。子どもたちが我先にと、その毛並みに寄りかかる。


「王都には、とても大きなお城があって」


 その光景に、カイルが静かに目を細めていた。



 夕方、薬草園の畑を見回りながら、私はふと立ち止まった。


 一輪、見慣れない花が咲いていた。


 薬草園には植えた覚えのない、青い小さな花。誰かが種を落としていったのだろうか。



「フェン。これ、何の花かわかりますか」


 フェンは鼻を近づけて、しばらく匂いを嗅いでいた。


「……知らんな。だが」


 その金色の瞳が、わずかに細まった。


「妙な力を感じる。……ただの花ではないかもしれん」



 その一言に、穏やかだった夕暮れの空気に、小さな緊張が走った。


 けれど、私はその花をそっと両手で包んだ。


 不安よりも、なぜか——ほんの少しの好奇心のほうが勝っていた。


「明日、詳しく調べてみましょう」


 新しい謎の芽が、静かに薬草園に根を下ろしていた。


(第162話へ続く)

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