第160話「ただいま帰りました」
王都を発ったのは、まだ朝靄の残る早朝だった。
見送りに出てきたリナが、涙ぐみながら手を振ってくれた。
「エリーゼ様。どうか、お幸せに」
「リナも。……いつか必ず、薬草園に遊びに来てください」
私たちはそう約束を交わして、王都を後にした。
◆
フェンの背に揺られながら、私は来たときと同じ景色を、逆から眺めていた。
けれど、その景色は行きとはまるで違って見えた。
過去との決着をつけた、あとの世界。——同じ丘も同じ空も、少しだけ軽やかに輝いて見えた。
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「疲れたか」
カイルが後ろから、そっと尋ねた。
「いいえ。……不思議と、身体が軽いです」
私は笑って答えた。
「これで本当に、全部終わったのですね」
「ああ」
カイルの声にも、これまでにない清々しさが滲んでいた。
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昼過ぎ、見慣れた丘が見えてきた。
その先に広がる、緑の薬草園。小さな家々。——七年前には想像もできなかった、私の居場所。
「見えたぞ」
フェンが速度を緩めながら言った。
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薬草園の前には、すでに人だかりができていた。
「エリーゼ様――!」
ナーシャが真っ先に駆け寄ってきた。マーサさんとミラさんが、その後ろで涙ぐんでいる。
「おかえりなさい!」
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「ただいま、帰りました」
私がそう言うと、涙がじわりと滲んできた。
——ただいま。この言葉を、こんなにもあたたかい気持ちで言える日が来るとは。
七年前、独りきりで屋敷を出たあの朝。私には帰る場所など、なかった。
◆
でも今は、違う。
ここに帰る場所がある。待っていてくれる人たちがいる。
「みんな、心配かけました」
私はみんなの顔を、一人ずつ見つめた。その一つ一つに、確かな絆があった。
◆
「無事で、なによりです」とマーサさんが、私をそっと抱きしめた。
「王城で、何かあったのですか?」とミラさんが心配そうに尋ねる。
「少し、色々ありました。……でも、全部乗り越えました」
私はそう言って微笑んだ。
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ルカがフェンに駆け寄って、その首に抱きついた。
「フェン、おかえり!」
「……重い」
そう文句を言いながらも、フェンはその身体を押しのけなかった。
◆
夕暮れの薬草園に、みんなの笑い声が満ちていく。
橙色の光が、すべてをあたたかく包んでいた。
私はその光景を、胸に深く刻んだ。
——ここが、私の居場所だ。何があっても帰ってこられる、あたたかい場所。
長い旅は終わった。そして、ここからまた新しい、私たちの日々が始まっていく。
(第161話へ続く)




