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第159話「王子の本音」

宴が終わり、人々が三々五々、大広間を後にしていく。


 私はまだ、指先の震えが収まらなかった。カイルがそっと、私の肩を抱いた。


「よくやった」


 その一言だけで、張りつめていたものがふっと緩んだ。



「エリーゼ様」


 声をかけられて振り返ると、アルヴィン様が一人、立っていた。


 先ほどまでの王としての威厳は、その顔から静かに抜け落ちていた。


「少し、話せるだろうか」



 案内されたのは、誰もいない小さな控えの間だった。


 アルヴィン様は窓辺に立ち、しばらく黙っていた。


「……先ほどのことは、詫びよう」


 やがて、彼は静かに口を開いた。



「私は玉座を継ぐ者として、この国を守らねばならない。……そのためなら、多少強引な手段も厭わないと、ずっとそう思ってきた」


「だが、今宵。……お前たちが持つ、あの民の信頼を見て。私は初めて気づいた」


 彼は静かに私を見た。



「力で得た忠誠は脆い。だが、あの領民たちの声は違った。……あれは真に、崩れない土台だ」


「私はそれを持っていない。……持とうともしてこなかった」


 その声には、初めて聞く率直な悔いが滲んでいた。



「殿下」


 私は静かに言った。


「今からでも遅くはないと思います。……民の声に耳を傾けることから始めれば」


 アルヴィン様は少しの間、私を見つめて。それから、小さく笑った。



「……まったく。カイルがお前を選んだ理由が、わかる気がするよ」


 その笑みは初めて、作り物ではなく。どこか少年のような率直さを湛えていた。


「聖獣の力を王家に捧げよという話は、撤回しよう。……その代わり」



「困ったときは、力を貸してくれないか。王命としてではなく——一人の友人として」


 差し出された手を、私はしばらく見つめた。


 そして、その手をしっかりと握り返した。


「はい。喜んで」



 その様子を少し離れた場所で、フェンがじっと見ていた。


「……ふん。多少は見どころのある男か」


 その呟きに、カイルが小さく笑った。


「兄上にしては、上出来だ」



 王城での長い一日が、終わろうとしていた。


 窓の外には、静かな夜空。星々がまるで祝福するように瞬いている。


 私は隣にいるカイルの手を、そっと握った。


 ——過去との決着はついた。あとは帰るだけだ。あの、あたたかい薬草園へ。


(第160話へ続く)

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