第159話「王子の本音」
宴が終わり、人々が三々五々、大広間を後にしていく。
私はまだ、指先の震えが収まらなかった。カイルがそっと、私の肩を抱いた。
「よくやった」
その一言だけで、張りつめていたものがふっと緩んだ。
◆
「エリーゼ様」
声をかけられて振り返ると、アルヴィン様が一人、立っていた。
先ほどまでの王としての威厳は、その顔から静かに抜け落ちていた。
「少し、話せるだろうか」
◆
案内されたのは、誰もいない小さな控えの間だった。
アルヴィン様は窓辺に立ち、しばらく黙っていた。
「……先ほどのことは、詫びよう」
やがて、彼は静かに口を開いた。
◆
「私は玉座を継ぐ者として、この国を守らねばならない。……そのためなら、多少強引な手段も厭わないと、ずっとそう思ってきた」
「だが、今宵。……お前たちが持つ、あの民の信頼を見て。私は初めて気づいた」
彼は静かに私を見た。
◆
「力で得た忠誠は脆い。だが、あの領民たちの声は違った。……あれは真に、崩れない土台だ」
「私はそれを持っていない。……持とうともしてこなかった」
その声には、初めて聞く率直な悔いが滲んでいた。
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「殿下」
私は静かに言った。
「今からでも遅くはないと思います。……民の声に耳を傾けることから始めれば」
アルヴィン様は少しの間、私を見つめて。それから、小さく笑った。
◆
「……まったく。カイルがお前を選んだ理由が、わかる気がするよ」
その笑みは初めて、作り物ではなく。どこか少年のような率直さを湛えていた。
「聖獣の力を王家に捧げよという話は、撤回しよう。……その代わり」
◆
「困ったときは、力を貸してくれないか。王命としてではなく——一人の友人として」
差し出された手を、私はしばらく見つめた。
そして、その手をしっかりと握り返した。
「はい。喜んで」
◆
その様子を少し離れた場所で、フェンがじっと見ていた。
「……ふん。多少は見どころのある男か」
その呟きに、カイルが小さく笑った。
「兄上にしては、上出来だ」
◆
王城での長い一日が、終わろうとしていた。
窓の外には、静かな夜空。星々がまるで祝福するように瞬いている。
私は隣にいるカイルの手を、そっと握った。
——過去との決着はついた。あとは帰るだけだ。あの、あたたかい薬草園へ。
(第160話へ続く)




