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第158話「歓迎の宴」

大広間には、王国中の貴族たちが集まっていた。


 シャンデリアの光が磨き上げられた床に反射し、まばゆいほどだった。楽団の調べ。着飾った人々のざわめき。——七年前と同じ光景。


 けれど、今の私はあの頃の私ではなかった。



「聖獣の伴侶、エリーゼ様。そして、カイル殿下、御到着です」


 侍従の声に、広間の視線が一斉に私たちへ集まった。


 隣にはカイル。少し後ろにはフェン。私は震えそうになる指先を、そっと握りしめて前を向いた。



 壇上から、アルヴィン様が微笑みながら私たちを迎えた。


「よく来てくれた。今宵は弟の結婚と、聖獣の伴侶を、皆で祝う夜だ」


 拍手が広間を満たす。けれど、その拍手の裏に、これから起きることへの緊張が張りつめているのを、私は感じ取っていた。



 やがて、アルヴィン様が静かに話し始めた。


「さて。今宵は皆に、一つ提案がある」


 その声色が変わった。甘さの中に、鋭さが混じる。


「聖獣の加護は、この国の宝だ。……その力を正式に、王家へ捧げていただけないだろうか」



 広間がどよめいた。


 貴族たちの視線が一斉に私へ向く。断れば反逆者。受ければフェンを差し出すことになる。——リナが警告した、あの罠だった。


 私は深く息を吸った。そして、まっすぐにアルヴィン様を見た。



「殿下。恐れながら申し上げます」


 私の声は広間に、はっきりと響いた。


「フェンは、この国の宝物ではありません。私の家族です」


「家族を誰かに捧げることなど、私にはできません」



「ならば、お前は」


 アルヴィン様の声が冷たく響いた。


「この国よりも、たった一匹の獣を選ぶというのか」


 その問いに、広間の空気が凍りついた。——完璧に追い込まれた瞬間だった。



 そのとき。


「答えるのは、俺だ」


 低く静かな声が響いた。フェンがゆっくりと前に出た。


「俺は道具ではない。誰の宝でもない。……そして、この国が俺の力を必要とするなら」


 金色の瞳が、広間全体を見渡した。



「力ずくで奪おうとする王には、聖獣は決して応えない。……だが」


 フェンは静かに続けた。


「困った者を助けることを、俺は厭わない。エリーゼがそう願うなら」


「それは隷属ではない。俺自身の意志だ」



 その言葉に、広間が静まり返った。


 やがて、一人の老貴族が震える声で言った。


「……先の飢饉のとき、この令嬢が聖獣とともに、我が領地を救ってくださった」


「あれは命令ではない。……ただの御恩義だったのですな」



 ぽつり、ぽつりと、同じような声が広間に上がり始めた。


 聖獣に救われた者たち。エリーゼの薬で命を救われた者たち。——彼らの声が、次第に大きなうねりとなっていく。


 アルヴィン様の顔から、初めて笑みが消えた。



「……これは、驚いた」


 彼は低く呟いた。


「力ではなく心で、これほどの者たちを味方につけるとは」


 その瞳に、敗北とは違う、何か——静かな感嘆のようなものが浮かんでいた。


「今宵のところは、私の負けのようだ」


 広間に、安堵のどよめきが広がった。


(第159話へ続く)

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