第156話「侍女の告白」
「リナ……どうして、あなたが」
私が問うと、リナはそっと部屋に滑り込み、後ろ手に扉を閉めた。
その顔は記憶よりも少し痩せていた。けれど、そのまっすぐな瞳は七年前と変わっていなかった。
◆
「ガーランド家を出たあと」
リナは声を潜めて語り始めた。
「私は伝手を頼って、王城の侍女になったのです」
あの離縁の後、彼女もまたあの屋敷を去っていたのだ。
「ずっとエリーゼ様のことが気がかりでした。……聖獣に選ばれたと聞いて、どれほど嬉しかったか」
その言葉に、私の胸がじんと熱くなった。
◆
「けれど、だからこそ——お伝えしなければ」
リナは震える声で続けた。
「アルヴィン殿下は、あなたをこの城に縛りつけるおつもりです」
「三日後の歓迎の宴。……そこで殿下は、聖獣の力を王家に捧げるよう、公の場でお求めになります」
◆
「もし断れば」
リナは唇を噛んだ。
「エリーゼ様とカイル様を、"国の宝を独占する反逆者"として糾弾なさるおつもりだと」
公衆の面前で、断れば反逆者。受ければフェンを差し出すことになる。——逃げ場のない罠だった。
私は静かに息を呑んだ。
◆
カイルの表情が険しくなった。
「……兄上らしいやり方だ」
彼は低く言った。
「正面から奪うのではなく、相手が断れない形に追い込む」
その声には、深い諦めのような響きがあった。
◆
フェンがゆっくりと立ち上がった。
金色の瞳が剣呑に光っている。
「くだらん茶番だ。……そんな宴、俺がぶち壊してやってもいい」
「フェン、待ってください」
私はその大きな身体を、そっと押しとどめた。
◆
「力で壊せば思うつぼです。……この国の人たちに、フェンが恐ろしい獣だと思われてしまう」
私はゆっくりとみんなを見回した。
七年前の私なら、きっと震えて逃げていた。でも、今は違う。
「逃げません。三日後の宴、堂々と出ましょう」
◆
「私たちが反逆者などではないと。フェンが道具などではないと。……あの場で、みんなに証明してみせます」
私の言葉に、カイルが静かに頷いた。フェンが、ふん、と鼻を鳴らす。
「……相変わらず、無茶を言う」
その声は、どこか誇らしげだった。
◆
「リナ。危険を冒して教えてくれて。……本当に、ありがとう」
私が礼を言うと、リナは涙ぐんで首を振った。
「どうか、お気をつけて。……この城には、殿下のほかにも。あなたを良く思わない者がいるようです」
その最後の一言が、夜の闇の中に静かに沈んでいった。
(第157話へ続く)




