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第156話「侍女の告白」

「リナ……どうして、あなたが」


 私が問うと、リナはそっと部屋に滑り込み、後ろ手に扉を閉めた。


 その顔は記憶よりも少し痩せていた。けれど、そのまっすぐな瞳は七年前と変わっていなかった。



「ガーランド家を出たあと」


 リナは声を潜めて語り始めた。


「私は伝手を頼って、王城の侍女になったのです」


 あの離縁の後、彼女もまたあの屋敷を去っていたのだ。


「ずっとエリーゼ様のことが気がかりでした。……聖獣に選ばれたと聞いて、どれほど嬉しかったか」


 その言葉に、私の胸がじんと熱くなった。



「けれど、だからこそ——お伝えしなければ」


 リナは震える声で続けた。


「アルヴィン殿下は、あなたをこの城に縛りつけるおつもりです」


「三日後の歓迎の宴。……そこで殿下は、聖獣の力を王家に捧げるよう、公の場でお求めになります」



「もし断れば」


 リナは唇を噛んだ。


「エリーゼ様とカイル様を、"国の宝を独占する反逆者"として糾弾なさるおつもりだと」


 公衆の面前で、断れば反逆者。受ければフェンを差し出すことになる。——逃げ場のない罠だった。


 私は静かに息を呑んだ。



 カイルの表情が険しくなった。


「……兄上らしいやり方だ」


 彼は低く言った。


「正面から奪うのではなく、相手が断れない形に追い込む」


 その声には、深い諦めのような響きがあった。



 フェンがゆっくりと立ち上がった。


 金色の瞳が剣呑に光っている。


「くだらん茶番だ。……そんな宴、俺がぶち壊してやってもいい」


「フェン、待ってください」


 私はその大きな身体を、そっと押しとどめた。



「力で壊せば思うつぼです。……この国の人たちに、フェンが恐ろしい獣だと思われてしまう」


 私はゆっくりとみんなを見回した。


 七年前の私なら、きっと震えて逃げていた。でも、今は違う。


「逃げません。三日後の宴、堂々と出ましょう」



「私たちが反逆者などではないと。フェンが道具などではないと。……あの場で、みんなに証明してみせます」


 私の言葉に、カイルが静かに頷いた。フェンが、ふん、と鼻を鳴らす。


「……相変わらず、無茶を言う」


 その声は、どこか誇らしげだった。



「リナ。危険を冒して教えてくれて。……本当に、ありがとう」


 私が礼を言うと、リナは涙ぐんで首を振った。


「どうか、お気をつけて。……この城には、殿下のほかにも。あなたを良く思わない者がいるようです」


 その最後の一言が、夜の闇の中に静かに沈んでいった。


(第157話へ続く)

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