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第155話「王城の夜」

あてがわれたのは、客間にしてはあまりに豪奢な一室だった。


 天蓋のついた寝台。金の燭台。磨かれた窓からは、月に照らされた王城の庭が見える。


 けれど、どんなに美しくても、この部屋はあの薬草園の素朴なぬくもりには遠く及ばなかった。



 フェンは窓辺に、大きな身体を丸めていた。


 その毛並みに触れると、いつもの陽だまりの匂いがする。私はほっと息をついた。


「フェン。……アルヴィン様は、あなたの力を狙っているのですね」


「ああ」


 フェンは静かに答えた。



「聖獣の力は、古来、王の証とされてきた」


 フェンは、月を見上げながら、語り出した。


「かつて、この国の初代王も、聖獣の加護を受けていた。……だが、聖獣は心で結ばれた者しか認めない。力ずくで縛ろうとした王は、みな滅んだ」



「アルヴィンという男は、それを知っている」


 フェンは続けた。


「だから、力ずくではなく、お前の心を絡めとろうとするだろう。甘い言葉と、褒美と、大義名分で」


 その声には、はっきりとした警告の響きがあった。



 そのとき、扉が開いて、カイルが戻ってきた。


「兄上の様子を、探ってきた」


 彼は静かに言った。


「……やはり、何か企んでいる。宮廷の空気がおかしい」


 私は彼の疲れた横顔を見て、そっとその手を取った。


「カイル。無理をしないでください」



 カイルは少しだけ、目元を緩めた。


「大丈夫だ。……お前とフェンがいる。それだけで、俺はあの頃の俺じゃない」


 彼は私の手を握り返した。


 冷たい王城の中で、その手の温もりだけが確かな私の居場所だった。



 その夜更け。


 こんこん、と扉が静かに叩かれた。


 こんな時間に、誰だろう。カイルが警戒しながら、扉を開ける。


 そこに立っていたのは——見覚えのある、一人の侍女だった。



「……リナ?」


 私は思わず声を上げた。


 七年前、あの離縁状の朝。震える手で、封筒を差し出してくれた、あの侍女。


 彼女がなぜ、こんな王城に——。


 リナは、青ざめた顔で、声を潜めて言った。


「エリーゼ様。どうか、お逃げください。この城は……危険です」


(第156話へ続く)

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