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第153話「王都への道」

旅立ちの朝が来た。


 薬草園の前には、たくさんの人が見送りに集まっていた。マーサさん、ミラさん、ルカ、ナーシャ。村の子どもたち。


「気をつけて、行ってらっしゃいませ」


 マーサさんが、包みを手渡してくれた。


「道中の、お弁当です」



「乗れ」


 フェンが身をかがめた。


 白銀の巨体が、朝日を弾いて輝いている。その背は、大人が二人乗っても余りあるほど大きい。


「え……フェンの背中に、ですか?」


「歩いていては、日が暮れる。……舌を噛むなよ」



 カイルが先に乗り、私に手を伸ばす。その手を取って、私もあたたかな毛並みの上に身を預けた。


「しっかり、掴まっていろ」


 フェンが地を蹴った。


 次の瞬間、景色が飛ぶように後ろへ流れていく。頬を切る風。眼下に広がる緑の丘。私は思わず声を上げた。


「すごい……! カイル、見てください、あんなに遠くまで!」



 振り返ると、カイルが私を後ろから支えてくれていた。


 その顔に、めずらしく子どものような笑みが浮かんでいる。


「ああ。……いい眺めだ」


 風の中で、私たちは笑い合った。フェンの背は、どこまでもあたたかかった。



 昼、小川のほとりで、休憩を取った。


 マーサさんのお弁当を広げると、香ばしいパンと干し肉が詰まっていた。フェンが鼻をひくつかせて、寄ってくる。


「……肉の匂いがするな」


「はい。あなたの分も、ちゃんとありますよ」


 私が差し出すと、フェンは上機嫌に尻尾を振った。その大きな身体で、意外と食いしん坊だった。



 午後、丘を一つ越えたとき。


 遠くに、それは見えた。


 白い城壁に囲まれた、大きな都。その中心に、天を突くように聳える、王城。——王都エルシオンだった。


 華やかで美しく。そして、どこか冷たい。



 その光景を見た瞬間、私の胸がきゅっと締めつけられた。


 かつて、私が笑顔を張りつけて生きていた社交界。着飾った令嬢たち。値踏みするような視線。


 ——あの世界に、また戻る。



 私の手が無意識に震えていた。


 その手をカイルが、そっと握った。


「大丈夫だ。俺が、隣にいる」


 フェンも低く唸って、身を寄せる。


「案ずるな。何かあれば、俺が城ごと吹き飛ばしてやる」


 その物騒な励ましに、私は思わず吹き出してしまった。



 こわばっていた肩から、すっと力が抜けた。


 そうだ。私は、もう独りではない。


 私はまっすぐに、王都を見据えた。


 ——さあ、行こう。過去の待つ、あの場所へ。


(第154話へ続く)

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