王の召し
それからさらに数日。
下町の熱病は、ついに収束した。
新たに倒れる者はなくなり、寝込んでいた人々も次々と床を上げていった。
町に活気が戻ってきた。
◆
私とナーシャは最後の患者を見送り、帰り支度を始めた。
すると——下町の人々が続々と集まってきた。
見送りに来てくれたのだ。
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「薬師様、本当にありがとうございました」
代表する形で、年配の男が深く頭を下げた。
「あんたが来てくれなければ、わしらの町は半分死んでいた。この恩は一生忘れねえ」
「どうか頭を上げてください」と私は言った。「私はただ、薬師として当たり前のことをしただけです」
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「当たり前なものか」と男は目を潤ませた。「貴族のお医者は誰もしなかった。あんたが特別なんだ」
人々が口々に礼を言う。
子供たちが私とナーシャに駆け寄り、別れを惜しんだ。
「おねえちゃん、また来てね!」
「ええ、必ず」と私はその頭を撫でた。
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人々はささやかな贈り物を私たちに持たせてくれた。
手作りのお守り。焼きたてのパン。心のこもった品々。
貧しいながらも精一杯の感謝だった。
その温もりに、私もナーシャも胸が熱くなった。
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人混みの中から、一人の老人が進み出てきた。
あの最初の日、一番に薬を飲ませた、あの老人だった。
「薬師様」と老人はしっかりとした足取りで言った。「あの時はもう駄目だと思った。でも、あんたのおかげで、わしはこうしてまた歩けている」
「お元気になられて、本当によかったです」と私は微笑んだ。
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「これはわしの宝物だった」と老人は古い小さな銅貨を私に握らせた。「大したものじゃないが、わしの命を救ってくれた礼だ。受け取ってくれ」
「……ありがとうございます」と私はその銅貨を大切に握りしめた。
貧しい人が差し出す、たった一枚の銅貨。それはどんな宝石よりも重く、温かかった。
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「さあ、ナーシャ」と私は言った。「帰りましょう。フェンも待っています」
数日、留守にしている。フェンの体調が気がかりだった。
あのぶっきらぼうな聖獣の顔が早く見たかった。
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その時だった。
下町には不釣り合いな、豪奢な馬車がやってきた。
金の装飾。王家の紋章。
それを見て、人々がざわめいた。
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馬車から降りてきたのは、格式高い装いの使者だった。
使者はまっすぐ私の前に来ると、恭しく頭を垂れた。
「薬師、エリーゼ殿でおいでですか」
「……はい」と私は答えた。
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「国王陛下より、お言葉を預かって参りました」と使者は言った。
その言葉に、周囲がしんと静まり返った。
国王陛下。この国の頂点に立つお方。
◆
「陛下は、あなたの此度の働きをお聞き及びです」と使者は言った。「下町を救った薬師のこと。ぜひ直々に会いたいと、王城に参られるよう仰せです」
国王陛下が、私に。
私はしばらく言葉を失っていた。
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離れた場所で聞いていたカイルが近づいてきた。
その表情は複雑だった。
「父上が、あなたを……」とカイルはつぶやいた。「よいお話なら、いいのですが」
「と、言いますと?」と私は聞いた。
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「父上は、まだあなたのことをご存じない」とカイルは言った。「そして、ハーグレイヴ侯爵は父上にも影響力がある。何を吹き込んでいるか……」
つまり、この召しが吉と出るか凶と出るか、まだわからないということだった。
◆
でも、私は不思議と落ち着いていた。
「行きます」と私は静かに言った。「陛下がお呼びなら、逃げる理由はありません」
「エリーゼ……」
「私は」と私は言った。「やましいことは何もしていません。ただ、ありのままの私を、陛下にお見せするだけです」
◆
カイルはしばらく私を見ていた。
そして、覚悟を決めたように頷いた。
「わかりました」とカイルは言った。「では私も、ご一緒します。父上の前に立つなら、私が隣にいるべきだ」
「カイル……いいのですか」と私は聞いた。
「当然です」とカイルはきっぱりと言った。「あなたは私の妻になる人だ。堂々と共に父上に会いましょう」
その言葉が心強かった。一人ではない。それだけで、どんな謁見も怖くなかった。
◆
「先生……大丈夫ですか」とナーシャが不安そうに言った。
「大丈夫ですよ」と私は微笑んだ。「ナーシャは先に研究所へ帰って。フェンに伝えてください。私は少し王城に寄ってから帰る、と」
「……はい。気をつけてください」
◆
下町の人々も心配そうに私を見ていた。
「薬師様……大丈夫かね」「お城に連れていかれて……」
「心配いりません」と私は彼らに微笑んだ。「すぐに戻ります。皆さんは、どうかお元気で。水は必ず煮沸を」
その言葉に、人々は少しだけ安心したように頷いた。
◆
こうして私は、王城へと向かうことになった。
民を救った、その先で。今度はこの国の王と向き合う。
吉と出るか、凶と出るか。
でも、もう迷いはなかった。私はまっすぐ前を見て、馬車に乗り込んだ。
◆
馬車の中で、私は人々からもらった品々をそっと握りしめた。
手作りのお守り。老人の銅貨。子供の野の花。
どれもささやかで、でも——私の何よりのお守りだった。
たとえ王の前でも、この人々の思いがある限り、私は胸を張っていられる。
「隣にいてくれますか」と私はカイルに聞いた。
「ええ」とカイルは私の手を握った。「ずっと傍に」
◆
秋の風が王家の紋章を揺らしていた。
窓の外を流れていく王都の街並み。
その向こうに、王城の尖塔がゆっくりと見えてきた。
大きく息を吸う。私はもう、あの頃のうつむいた令嬢ではない。
——運命の謁見が、今、始まろうとしていた。
(第136話へ続く)




