兄の祝福
数日後。
私とカイルは王城へと向かった。
今度はアルヴィン殿下に会うために。
私たちのこれからを、きちんと伝えるために。
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王城の一室で。
アルヴィン殿下は穏やかな笑みで私たちを迎えた。
「よく来てくれた」とアルヴィン殿下は言った。「二人揃って訪ねてくるとは。——珍しいな」
以前の駆け引きの匂いは、もうどこにもなかった。
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「兄上」とカイルが言った。「今日は折り入ってお願いがあって参りました」
「ほう」とアルヴィン殿下は興味深そうに言った。「カイルが自分から頼み事とは。——いったい何かな」
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「エリーゼと正式に夫婦になりたいのです」とカイルは言った。「兄上に、その後ろ盾になっていただきたい」
その言葉に、私は隣で頬が熱くなった。
アルヴィン殿下はしばらく私たちを見ていた。
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「ようやくか」とアルヴィン殿下はふっと笑った。「お前たちが想い合っているのは、とうにわかっていた」
「兄上……」
「祝福するとも」とアルヴィン殿下は言った。「お前が選んだ人だ。——それに、エリーゼ妃はわたしにとっても恩人だからな」
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でも——アルヴィン殿下の表情が、ふと曇った。
「ただ」と彼は言った。「簡単な道ではない。それは知っておいてほしい」
「……と言いますと」と私は聞いた。
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「貴族たちの中には」とアルヴィン殿下は言った。「あなたの過去を問題視する者がいる。離縁された女性、没落した家の出。そういう女性が王家に入ることを快く思わない者がな」
「……」
「特に」とアルヴィン殿下は言った。「ハーグレイヴ侯爵。あの男は自分の娘をカイルに嫁がせようと画策している。——あなたの存在は、彼にとって目障りだろう」
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私は静かにその話を聞いていた。
予想はしていた。王家に入るということは、そういう壁があるということを。
「俺は」とカイルがきっぱりと言った。「誰が何と言おうと、エリーゼ以外を妻にするつもりはありません」
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「その覚悟は頼もしい」とアルヴィン殿下は言った。「だが力押しでは角が立つ。——エリーゼ妃。あなたには貴族たちに認めさせるだけの何かが必要だ」
「認めさせる何か……」と私はつぶやいた。
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「あなたにはすでにある」とアルヴィン殿下は言った。「民を救ってきた実績が。あなたの薬は、もう王都にもその名が届いている。——それはどんな家柄よりも尊い価値だ」
「殿下……」
「胸を張りなさい」とアルヴィン殿下は優しく言った。「あなたは何も恥じることはない。——わたしも力を貸そう」
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「殿下」と私はまっすぐに彼を見て言った。「一つ、お約束いたします」
「ほう?」とアルヴィン殿下が片眉を上げた。
「私は家柄や過去で勝とうとは思いません」と私は言った。「ただ、これまで通り困っている人に手を伸ばし続けます。その積み重ねで、いつか貴族の方々にも認めていただけるよう、逃げず誠実に進んでいきます」
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アルヴィン殿下はしばらく私を見つめていた。
そして——ふっと目を細めた。
「いい目をしているな」と彼は言った。「カイルが惚れるわけだ。——あなたなら、きっと貴族たちの心も動かせるだろう」
「ありがとうございます」と私は頭を下げた。
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「ありがとうございます、兄上」とカイルが頭を下げた。
「礼はいい」とアルヴィン殿下は言った。「家族になるのだろう?——なら、これは当たり前のことだ」
その言葉に、私とカイルは顔を見合わせて微笑んだ。
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「それに」とアルヴィン殿下はいたずらっぽく言った。「お前たちの結婚式では、わたしが菓子を焼こう。今度こそ焦がさずにな」
「……兄上、それは勘弁してください」とカイルが真顔で言った。
その兄弟のやり取りに、私は思わず笑ってしまった。
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謁見を終え、王城の長い廊下を歩いていた時だった。
向こうから一人の若い令嬢が歩いてきた。
豪奢なドレス、高く結い上げた髪。美しいが、どこか冷たい目をした女性だった。
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令嬢は私たちの前で足を止めた。
「あら、カイル殿下」と彼女は艶やかに微笑んだ。「ごきげんよう。——そちらの方は?」
その視線が、ちらりと私を捉えた。値踏みするような冷たい視線だった。
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「……ハーグレイヴ侯爵令嬢」とカイルが硬い声で言った。「彼女はエリーゼ。——私の大切な人です」
「まあ」と令嬢は口元だけで笑った。「噂の薬師の方ね。離縁された、という」
その言葉に棘があった。でも、私は動じなかった。
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「お初にお目にかかります」と私は静かに礼をした。「エリーゼと申します」
令嬢は私をしばらく見つめ、ふん、と鼻で笑った。
「せいぜいお気をつけて」と彼女は言った。「王家は、あなたのような方が立つには少々眩しい場所ですわ」
そう言い残し、令嬢は去っていった。
◆
「……あれがハーグレイヴ侯爵の娘です」とカイルが苦々しげに言った。「気にしないでください」
「大丈夫です」と私は微笑んだ。「あの程度の言葉では、もう私は傷つきません」
かつての私なら、うつむいていただろう。でも今は違う。私はまっすぐ前を見ていた。
◆
帰りの馬車の中で。
私はこれから待ち受けるものを思った。
貴族たちの壁。ハーグレイヴ侯爵の思惑。
でも——不思議と怖くはなかった。
◆
「大丈夫です」と私はカイルに言った。「私は逃げません。——あなたの隣に立つために、胸を張って進みます」
「ええ」とカイルは私の手を握った。「俺も何があっても、あなたを守ります」
秋の風が王城の庭の木々を揺らしていた。
研究所で待つフェンの顔が浮かんだ。きっとまた、ぶっきらぼうに励ましてくれるだろう。
新しい試練の季節が始まろうとしていた。
でも、私にはもう、たくさんの味方がいる。だから、きっと乗り越えられる。
(第133話へ続く)




