もう終わったこと
私はその閉ざされた扉の前に立った。
奥から——かすかに人の気配がした。
私は静かに扉を叩いた。
◆
返事はなかった。
私はもう一度叩いた。
「……マーサか」と中から力のない声がした。「もう放っておいてくれ」
その声は——記憶よりもずっと痩せて掠れていた。
◆
「ウィレム様」と私は声をかけた。「エリーゼです」
一瞬——部屋の中がしんと静まり返った。
そして、慌てたような物音。
やがて、扉がゆっくりと開いた。
◆
そこにいたのは——別人のような男だった。
かつて自信に満ちていたウィレム。
その面影はもうなかった。げっそりとこけた頬。伸びた無精髭。落ちくぼんだ目。着古した衣服。
私を捨てたあの人が——そこにいた。
◆
「……エリーゼ」とウィレムは呆然とつぶやいた。「本当に……君なのか」
「お久しぶりです」と私は静かに言った。
「なぜ……なぜ君がここに」とウィレムは声を震わせた。「こんな……こんな落ちぶれた私のところに……」
◆
「マーサさんに会いに来ました」と私は言った。「あなたにではありません」
その言葉に——ウィレムの顔が苦痛に歪んだ。
「……そうか」と彼はうつむいた。「当然だ。私は……君に合わせる顔など……」
◆
ウィレムはその場に膝をついた。
「すまなかった」と彼は絞り出すように言った。「エリーゼ……本当にすまなかった」
「……」
「私は間違っていた」とウィレムは言った。「あの女の言葉に惑わされ……君の献身を当たり前だと思い込み……一番大切なものを自分の手で捨てたんだ」
◆
「七年間」とウィレムは言った。「君がどれほどこの家のために尽くしてくれたか。——失って初めてわかった。君がいなくなってから、この家は何もかも崩れていった」
その声は嗚咽に震えていた。
「君がいた頃が……どれほど恵まれていたか……」
◆
私はその姿を静かに見ていた。
膝をつき、泣きながら悔いている、かつての夫。
不思議だった。これほど私を苦しめた人が、今、目の前で崩れているのに——私の心は波一つ立たなかった。
憎しみも。怒りも。もうどこにもなかった。
◆
「ウィレム様」と私は静かに言った。「顔を上げてください」
ウィレムが、おそるおそる顔を上げた。
「私は」と私は言った。「あなたを恨んではいません」
「……っ」
◆
「恨み続けるには」と私は言った。「私の新しい人生は、あまりに満たされているのです」
私は静かに続けた。
「あなたに捨てられて、私はすべてを失ったと思いました。でも——その先で私は本当に大切なものに出会えた。私を必要としてくれる人。私が守りたいと思える人。——温かい居場所を」
◆
「だから」と私は言った。「もう終わったことです」
——七年前、私が言えなかった言葉。
あの朝、涙も出ずに、ただうなずくしかなかった私が、今はっきりと口にした。
「あなたと私のことは——もう、とうの昔に終わっています」
◆
ウィレムは私を見上げていた。
その目から、また涙がこぼれた。
「君は……変わったな」と彼はかすれた声で言った。「あの頃のうつむいていた君では……ない」
「ええ」と私は言った。「私は前を向くことにしましたから」
◆
その時、私の後ろに控えていたカイルが、一歩前に出た。
ウィレムがその姿を見て——息を呑んだ。
高貴な佇まい。気品。そして——その顔に見覚えがあったのだろう。
「……まさか、第二王子殿下……?」とウィレムが震える声で言った。
◆
「エリーゼの夫です」とカイルは静かに言った。
たった一言。でも、その言葉の重みに——ウィレムは言葉を失った。
自分が手放した女性が、今や王家に迎えられ、愛されている。
その事実が——ウィレムの胸をどれほど抉ったか。
◆
でも、カイルはそれ以上何も言わなかった。
責めることも、蔑むこともしなかった。
ただ静かに、私の隣に立っていた。
その沈黙こそが——何よりも雄弁だった。
◆
「……どうか」とウィレムは最後に言った。「君が幸せに……幸せになってくれ。それだけが……今の私の願いだ」
「ありがとうございます」と私は静かに言った。「あなたも、どうかお元気で」
それは——社交辞令でも皮肉でもなかった。
ただ、過去の人への最後のはなむけだった。
◆
私は踵を返した。
もう振り返らなかった。
暗い部屋を後にして、私は玄関へと歩いていった。
◆
玄関で、マーサさんが待っていた。
その目は、また潤んでいた。きっと聞いていたのだろう。
「お嬢様……」とマーサさんが言った。
「終わりました」と私は微笑んだ。「——もう何も残っていません。私の心の中に」
◆
私は、持ってきた薬といくらかの食料を、マーサさんに託した。
「これをウィレム様に。——憎んでいるわけではありません。ただ、人として見過ごせないだけです」
「お嬢様は……どうして、そんなにお優しいのですか」とマーサさんが言葉を詰まらせた。
「傷つけられた痛みを知っているからです」と私は言った。「だからこそ、同じ痛みを誰かに与えたくない。——たとえその相手が誰であっても」
◆
そして、私はマーサさんの手を取った。
「マーサさん。——ここでの務めが一段落したら、いつでも私のところへ来てください。あなたの居場所は、私が作ります」
「……はい」とマーサさんは深く頷いた。「必ず。——必ず伺います、お嬢様」
◆
屋敷を出ると、
夏の終わりの空が、高く広がっていた。
カイルが、私の隣に並んだ。
「お疲れ様でした」と、カイルは優しく言った。
「ええ」と私は言った。「……不思議です。胸が、こんなにも軽い」
◆
——けじめはついた。長い、長い七年間に、ようやく。
私は晴れやかな気持ちで、空を見上げた。
過去は、もう私を縛らない。
私は前を向いて歩いていく。カイルと、フェンと、ナーシャの待つ、あの場所へ。
新しい人生を。
(第131話へ続く)




