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もう終わったこと

 私はその閉ざされた扉の前に立った。


 奥から——かすかに人の気配がした。


 私は静かに扉を叩いた。



 返事はなかった。


 私はもう一度叩いた。


「……マーサか」と中から力のない声がした。「もう放っておいてくれ」


 その声は——記憶よりもずっと痩せて掠れていた。



「ウィレム様」と私は声をかけた。「エリーゼです」


 一瞬——部屋の中がしんと静まり返った。


 そして、慌てたような物音。


 やがて、扉がゆっくりと開いた。



 そこにいたのは——別人のような男だった。


 かつて自信に満ちていたウィレム。


 その面影はもうなかった。げっそりとこけた頬。伸びた無精髭。落ちくぼんだ目。着古した衣服。


 私を捨てたあの人が——そこにいた。



「……エリーゼ」とウィレムは呆然とつぶやいた。「本当に……君なのか」


「お久しぶりです」と私は静かに言った。


「なぜ……なぜ君がここに」とウィレムは声を震わせた。「こんな……こんな落ちぶれた私のところに……」



「マーサさんに会いに来ました」と私は言った。「あなたにではありません」


 その言葉に——ウィレムの顔が苦痛に歪んだ。


「……そうか」と彼はうつむいた。「当然だ。私は……君に合わせる顔など……」



 ウィレムはその場に膝をついた。


「すまなかった」と彼は絞り出すように言った。「エリーゼ……本当にすまなかった」


「……」


「私は間違っていた」とウィレムは言った。「あの女の言葉に惑わされ……君の献身を当たり前だと思い込み……一番大切なものを自分の手で捨てたんだ」



「七年間」とウィレムは言った。「君がどれほどこの家のために尽くしてくれたか。——失って初めてわかった。君がいなくなってから、この家は何もかも崩れていった」


 その声は嗚咽に震えていた。


「君がいた頃が……どれほど恵まれていたか……」



 私はその姿を静かに見ていた。


 膝をつき、泣きながら悔いている、かつての夫。


 不思議だった。これほど私を苦しめた人が、今、目の前で崩れているのに——私の心は波一つ立たなかった。


 憎しみも。怒りも。もうどこにもなかった。



「ウィレム様」と私は静かに言った。「顔を上げてください」


 ウィレムが、おそるおそる顔を上げた。


「私は」と私は言った。「あなたを恨んではいません」


「……っ」



「恨み続けるには」と私は言った。「私の新しい人生は、あまりに満たされているのです」


 私は静かに続けた。


「あなたに捨てられて、私はすべてを失ったと思いました。でも——その先で私は本当に大切なものに出会えた。私を必要としてくれる人。私が守りたいと思える人。——温かい居場所を」



「だから」と私は言った。「もう終わったことです」


 ——七年前、私が言えなかった言葉。


 あの朝、涙も出ずに、ただうなずくしかなかった私が、今はっきりと口にした。


「あなたと私のことは——もう、とうの昔に終わっています」



 ウィレムは私を見上げていた。


 その目から、また涙がこぼれた。


「君は……変わったな」と彼はかすれた声で言った。「あの頃のうつむいていた君では……ない」


「ええ」と私は言った。「私は前を向くことにしましたから」



 その時、私の後ろに控えていたカイルが、一歩前に出た。


 ウィレムがその姿を見て——息を呑んだ。


 高貴な佇まい。気品。そして——その顔に見覚えがあったのだろう。


「……まさか、第二王子殿下……?」とウィレムが震える声で言った。



「エリーゼの夫です」とカイルは静かに言った。


 たった一言。でも、その言葉の重みに——ウィレムは言葉を失った。


 自分が手放した女性が、今や王家に迎えられ、愛されている。


 その事実が——ウィレムの胸をどれほど抉ったか。



 でも、カイルはそれ以上何も言わなかった。


 責めることも、蔑むこともしなかった。


 ただ静かに、私の隣に立っていた。


 その沈黙こそが——何よりも雄弁だった。



「……どうか」とウィレムは最後に言った。「君が幸せに……幸せになってくれ。それだけが……今の私の願いだ」


「ありがとうございます」と私は静かに言った。「あなたも、どうかお元気で」


 それは——社交辞令でも皮肉でもなかった。


 ただ、過去の人への最後のはなむけだった。



 私は踵を返した。


 もう振り返らなかった。


 暗い部屋を後にして、私は玄関へと歩いていった。



 玄関で、マーサさんが待っていた。


 その目は、また潤んでいた。きっと聞いていたのだろう。


「お嬢様……」とマーサさんが言った。


「終わりました」と私は微笑んだ。「——もう何も残っていません。私の心の中に」



 私は、持ってきた薬といくらかの食料を、マーサさんに託した。


「これをウィレム様に。——憎んでいるわけではありません。ただ、人として見過ごせないだけです」


「お嬢様は……どうして、そんなにお優しいのですか」とマーサさんが言葉を詰まらせた。


「傷つけられた痛みを知っているからです」と私は言った。「だからこそ、同じ痛みを誰かに与えたくない。——たとえその相手が誰であっても」



 そして、私はマーサさんの手を取った。


「マーサさん。——ここでの務めが一段落したら、いつでも私のところへ来てください。あなたの居場所は、私が作ります」


「……はい」とマーサさんは深く頷いた。「必ず。——必ず伺います、お嬢様」



 屋敷を出ると、


 夏の終わりの空が、高く広がっていた。


 カイルが、私の隣に並んだ。


「お疲れ様でした」と、カイルは優しく言った。


「ええ」と私は言った。「……不思議です。胸が、こんなにも軽い」



 ——けじめはついた。長い、長い七年間に、ようやく。


 私は晴れやかな気持ちで、空を見上げた。


 過去は、もう私を縛らない。


 私は前を向いて歩いていく。カイルと、フェンと、ナーシャの待つ、あの場所へ。


 新しい人生を。


(第131話へ続く)

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