あの家へ
数日後。
私とカイルは馬車で王都へと向かった。
七年ぶりの——あの家への道のりだった。
馬車に揺られながら、私は窓の外を流れる景色を静かに見ていた。
◆
「緊張していますか」とカイルが聞いた。
「……少しだけ」と私は正直に答えた。「でも、不思議と怖くはありません」
「そうですか」
「ええ」と私は言った。「隣にあなたがいてくれますから」
カイルが私の手をそっと握った。その温もりが心強かった。
◆
馬車に揺られながら、私は七年前の自分を思い出していた。
あの頃の私は——いつもうつむいていた。誰にも必要とされず、ただ家のためにすり減っていく日々。
離縁状を受け取った、あの朝。涙すら出なかった、あの私。
でも、今は違う。私は顔を上げて、あの家へ向かっている。——救うべき人を救うために。
◆
やがて、馬車は王都に入った。
懐かしい街並み。でも、私の心は奇妙なほど凪いでいた。
そして——あの家の前に着いた。
馬車を降りた私は、思わず息を呑んだ。
◆
かつて——華やかだった屋敷。
その面影は、もうどこにもなかった。
手入れのされていない庭。蔦の絡んだ壁。落ちかけた門。半分の窓は暗く閉ざされていた。
まるで——朽ちていく抜け殻のようだった。
◆
「……ひどい有様ですね」とカイルが静かに言った。
「ええ」と私は言った。
七年間、私がすり減らされた、あの家。
その家が今、こんなにも寂れている。でも——私の胸に勝ち誇る気持ちは湧かなかった。ただ、もの悲しさだけがあった。
◆
私は門を叩いた。
しばらくして——軋む音と共に、扉がわずかに開いた。
顔を覗かせたのは——年老いた女性だった。
マーサさんだった。
◆
以前よりずっと痩せて、皺も増えていた。
でも——その優しい目だけは変わっていなかった。
マーサさんは私を見て——大きく目を見開いた。
「……エリーゼお嬢様?」と、その声が震えた。
◆
「お久しぶりです、マーサさん」と私は微笑んだ。
「本当に……本当に来てくださったのですか」とマーサさんは信じられないというように言った。「こんな……こんな落ちぶれた家に……」
「あなたに会いに来ました」と私は言った。
◆
マーサさんの目から——ぼろぼろと涙がこぼれた。
「お嬢様……お嬢様……!」
マーサさんはその場に崩れるように、私の手を取った。
「申し訳ありませんでした」と、マーサさんは泣きながら言った。「あの時、私は……あなたを守ってあげられなかった……」
◆
「マーサさん」と私はその手を握り返した。「謝らないでください」
「でも……!」
「あなたは」と私は言った。「あの家で唯一、私に優しくしてくれた人です。夜、こっそりスープを運んでくれた。背中をさすってくれた。——あの温もりが、どれほど私を救ったか」
◆
「あなたがいてくれたから」と私は言った。「私はあの七年を生き延びられたのです。——だから、お礼を言いに来ました。ありがとうございました、と」
マーサさんは、もう言葉にならなかった。
ただ、私の手を握りしめ、子供のように泣いていた。
◆
私はしばらく、マーサさんが落ち着くのを待った。
カイルは少し離れた場所で、静かに見守っていた。
やがて、マーサさんは涙を拭い、私たちを屋敷の中へと招いた。
◆
屋敷の中は——外以上に寒々としていた。
家具のほとんどは売り払われ、広間はがらんとしていた。
かつて何十人もいた使用人は——今や、マーサさんただ一人だという。
◆
「みな、出ていきました」とマーサさんは力なく言った。「給金も払えなくなって。——残ったのは、行く当てのない私だけです」
◆
「マーサさん」と私は言った。「もしよければ——私の研究所に来ませんか」
「え……?」とマーサさんが顔を上げた。
「こんな寒い家に、無理に留まることはありません」と私は言った。「私の研究所は、いつも人手が足りないのです。あなたのその温かい手があれば。——きっと、たくさんの人が救われます」
◆
マーサさんは、しばらく言葉を失っていた。
「……お嬢様」と、マーサさんは声を震わせた。「私を追い出した家の人間を……あなたは、そんなに優しく……」
「あなたは、私を追い出してなどいません」と私は言った。「あなたは私を支えてくれた。——今度は私が、あなたを支える番です」
◆
でも——マーサさんは、すぐには頷かなかった。
その視線が、ちらりと屋敷の奥へと向けられた。
「……ありがたいお話です」と、マーサさんは言った。「でも、私には……まだここを離れられない理由があるのです」
「理由?」
「旦那様です」とマーサさんは言った。
◆
「ウィレム様は」と私は静かに聞いた。
「……旦那様は」とマーサさんの顔が曇った。
◆
「旦那様は、奥の部屋に閉じこもったままです」とマーサさんは言った。「あの愛人と、その子も。——後ろ盾の家が潰れた途端、出ていきました。旦那様を置いて」
「……」
「すべてを失って。旦那様は、もう抜け殻のようになってしまわれて……」
◆
私はその話を静かに聞いていた。
ウィレム。私を捨てた、あの人。
愛人の子を認め、私に離縁状を突きつけた、あの人が——今、すべてを失い、独り暗い部屋に閉じこもっている。
◆
「お嬢様」とマーサさんが、ふと言った。「旦那様は……あなたのことを、よく口にされます」
私ははっとした。
「後悔しておられます」とマーサさんは言った。「あなたを手放したことを。——でも、今さら合わせる顔もないと」
◆
奥の暗い部屋。
そこに、私を捨てた人がいる。
会うべきか。会わざるべきか。
私はしばらく、その閉ざされた扉の方を見つめていた。
——けじめをつけに来たのだ。私は静かに息を吸った。
(第130話へ続く)




