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あの家へ

 数日後。


 私とカイルは馬車で王都へと向かった。


 七年ぶりの——あの家への道のりだった。


 馬車に揺られながら、私は窓の外を流れる景色を静かに見ていた。



「緊張していますか」とカイルが聞いた。


「……少しだけ」と私は正直に答えた。「でも、不思議と怖くはありません」


「そうですか」


「ええ」と私は言った。「隣にあなたがいてくれますから」


 カイルが私の手をそっと握った。その温もりが心強かった。



 馬車に揺られながら、私は七年前の自分を思い出していた。


 あの頃の私は——いつもうつむいていた。誰にも必要とされず、ただ家のためにすり減っていく日々。


 離縁状を受け取った、あの朝。涙すら出なかった、あの私。


 でも、今は違う。私は顔を上げて、あの家へ向かっている。——救うべき人を救うために。



 やがて、馬車は王都に入った。


 懐かしい街並み。でも、私の心は奇妙なほど凪いでいた。


 そして——あの家の前に着いた。


 馬車を降りた私は、思わず息を呑んだ。



 かつて——華やかだった屋敷。


 その面影は、もうどこにもなかった。


 手入れのされていない庭。蔦の絡んだ壁。落ちかけた門。半分の窓は暗く閉ざされていた。


 まるで——朽ちていく抜け殻のようだった。



「……ひどい有様ですね」とカイルが静かに言った。


「ええ」と私は言った。


 七年間、私がすり減らされた、あの家。


 その家が今、こんなにも寂れている。でも——私の胸に勝ち誇る気持ちは湧かなかった。ただ、もの悲しさだけがあった。



 私は門を叩いた。


 しばらくして——軋む音と共に、扉がわずかに開いた。


 顔を覗かせたのは——年老いた女性だった。


 マーサさんだった。



 以前よりずっと痩せて、皺も増えていた。


 でも——その優しい目だけは変わっていなかった。


 マーサさんは私を見て——大きく目を見開いた。


「……エリーゼお嬢様?」と、その声が震えた。



「お久しぶりです、マーサさん」と私は微笑んだ。


「本当に……本当に来てくださったのですか」とマーサさんは信じられないというように言った。「こんな……こんな落ちぶれた家に……」


「あなたに会いに来ました」と私は言った。



 マーサさんの目から——ぼろぼろと涙がこぼれた。


「お嬢様……お嬢様……!」


 マーサさんはその場に崩れるように、私の手を取った。


「申し訳ありませんでした」と、マーサさんは泣きながら言った。「あの時、私は……あなたを守ってあげられなかった……」



「マーサさん」と私はその手を握り返した。「謝らないでください」


「でも……!」


「あなたは」と私は言った。「あの家で唯一、私に優しくしてくれた人です。夜、こっそりスープを運んでくれた。背中をさすってくれた。——あの温もりが、どれほど私を救ったか」



「あなたがいてくれたから」と私は言った。「私はあの七年を生き延びられたのです。——だから、お礼を言いに来ました。ありがとうございました、と」


 マーサさんは、もう言葉にならなかった。


 ただ、私の手を握りしめ、子供のように泣いていた。



 私はしばらく、マーサさんが落ち着くのを待った。


 カイルは少し離れた場所で、静かに見守っていた。


 やがて、マーサさんは涙を拭い、私たちを屋敷の中へと招いた。



 屋敷の中は——外以上に寒々としていた。


 家具のほとんどは売り払われ、広間はがらんとしていた。


 かつて何十人もいた使用人は——今や、マーサさんただ一人だという。



「みな、出ていきました」とマーサさんは力なく言った。「給金も払えなくなって。——残ったのは、行く当てのない私だけです」



「マーサさん」と私は言った。「もしよければ——私の研究所に来ませんか」


「え……?」とマーサさんが顔を上げた。


「こんな寒い家に、無理に留まることはありません」と私は言った。「私の研究所は、いつも人手が足りないのです。あなたのその温かい手があれば。——きっと、たくさんの人が救われます」



 マーサさんは、しばらく言葉を失っていた。


「……お嬢様」と、マーサさんは声を震わせた。「私を追い出した家の人間を……あなたは、そんなに優しく……」


「あなたは、私を追い出してなどいません」と私は言った。「あなたは私を支えてくれた。——今度は私が、あなたを支える番です」



 でも——マーサさんは、すぐには頷かなかった。


 その視線が、ちらりと屋敷の奥へと向けられた。


「……ありがたいお話です」と、マーサさんは言った。「でも、私には……まだここを離れられない理由があるのです」


「理由?」


「旦那様です」とマーサさんは言った。



「ウィレム様は」と私は静かに聞いた。


「……旦那様は」とマーサさんの顔が曇った。



「旦那様は、奥の部屋に閉じこもったままです」とマーサさんは言った。「あの愛人と、その子も。——後ろ盾の家が潰れた途端、出ていきました。旦那様を置いて」


「……」


「すべてを失って。旦那様は、もう抜け殻のようになってしまわれて……」



 私はその話を静かに聞いていた。


 ウィレム。私を捨てた、あの人。


 愛人の子を認め、私に離縁状を突きつけた、あの人が——今、すべてを失い、独り暗い部屋に閉じこもっている。



「お嬢様」とマーサさんが、ふと言った。「旦那様は……あなたのことを、よく口にされます」


 私ははっとした。


「後悔しておられます」とマーサさんは言った。「あなたを手放したことを。——でも、今さら合わせる顔もないと」



 奥の暗い部屋。


 そこに、私を捨てた人がいる。


 会うべきか。会わざるべきか。


 私はしばらく、その閉ざされた扉の方を見つめていた。


 ——けじめをつけに来たのだ。私は静かに息を吸った。


(第130話へ続く)

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