遠い村から
夏の旅から数日が過ぎた。
研究所にはいつもの穏やかな日々が戻っていた。
患者を診て、薬を作り、ナーシャを育てる。フェンは窓辺の貝殻を時々眺めていた。
でも、その日の昼下がり——一人の女性が門を叩いた。
◆
女性はひどく疲れていた。
着古した旅装。土に汚れた靴。何日も歩いてきたのだろう。
その腕には——小さな子供が抱かれていた。
「……薬師様、ですか」と女性はかすれた声で言った。「どうか、どうか、この子を……」
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子供の顔は赤く火照っていた。
息が浅く速い。高い熱だった。
「すぐに中へ」と私は言った。「ナーシャ、寝台の準備を」
「はい!」
ナーシャが駆けていった。
◆
女性の名はミラといった。
遠い山向こうの村から来たという。
「村に薬師はいなくて」とミラは言った。「この子の熱が五日も下がらなくて。——あなたの噂を聞いて、死にものぐるいで歩いてきました」
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私は子供を診た。
高い熱。細い息。乾いた唇。
ただの風邪ではなかった。何かもっと深いところで燃えている。
「……お母さん」と私は静かに言った。「この子の熱、いつから、何がきっかけだったか教えてください」
◆
ミラは震える声で話した。
五日前、子供が森で遊んでいて小さな傷を作った。その夜から熱が出始めた、と。
「傷……」と私はつぶやいた。
私は子供の身体を丁寧に調べた。
そして——見つけた。足首に小さな化膿した傷を。
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「これです」と私は言った。「傷から悪いものが入って熱を出しています」
「治りますか」とミラがすがるように言った。
「……治します」と私は言った。「必ず」
でも——内心では容易ではないとわかっていた。
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傷の毒はすでに身体の深くまで回り始めていた。
高熱が続けば幼い身体はもたない。
急いで毒を抑え、熱を下げなければならない。
「ナーシャ」と私は言った。「解毒の薬湯を。それと熱冷ましを」
「はい!」
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ナーシャが薬を調合し始めた。
その手つきは——もう危なげがなかった。あの夏の前に一人で熱冷ましを作れるようになった、あの子だ。
私は傷の手当てをした。膿を出し、薬草を当てて清めていく。
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縁側からフェンが声をかけた。
「エリーゼ」とフェンは言った。「その傷の毒——タチが悪いな。匂いでわかる」
「フェン、何か知っていますか」と私は聞いた。
「ああ」とフェンは言った。「昔、見た。——あの熱には、ただの解毒では足りん」
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私はフェンに近づいた。
「教えてください」
「銀蘭の根だ」とフェンは言った。「あれを煎じて飲ませろ。——毒を芯から断つ」
「銀蘭……」と私はつぶやいた。「でも、あれはめったに手に入らない」
◆
「薬草園にある」とフェンは言った。「お前が春に植えた、あれだ。——もう根が張っている頃だ」
私ははっとした。
春、何気なく植えた一株。あの銀蘭が——今、この子を救うかもしれない。
◆
「ナーシャ!」と私は言った。「薬草園の奥。銀蘭を掘ってきてください。根を傷つけないように」
「銀蘭ですね! わかりました!」
ナーシャが飛び出していった。
ミラは子供の傍らで祈るように手を握っていた。
◆
「お母さん」と私は言った。「大丈夫。——打てる手はすべて打ちます」
「……ありがとうございます」とミラは涙をこぼした。「私、この子しかいないんです。夫ももういなくて。この子だけが……」
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その言葉に、私は胸が痛んだ。
この子しかいない。
かつての私も——何もなかった。すべてを失って独りだった。
だからこそわかる。この母親の必死さが。
◆
「必ず助けます」と私はもう一度言った。
今度は自分自身に言い聞かせるように。
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ほどなく、ナーシャが戻ってきた。
泥の付いた白い根を両手に抱えて。
「先生! 銀蘭です! 根、傷つけてません!」
「よくやりました」と私は言った。「すぐ煎じます」
◆
私とナーシャは銀蘭の根を丁寧に洗い、刻み、湯に入れた。
白い湯気が立ち昇り、薬草の独特の香りが部屋に満ちた。
とろ火でじっくりと煮出していく。フェンが縁側からその様子を見守っていた。
「焦るな」とフェンは言った。「銀蘭は急ぐと効き目が死ぬ。——ゆっくり芯を引き出せ」
◆
やがて薬湯ができあがった。
琥珀色の澄んだ薬だった。
私はそれを冷まし、匙で少しずつ子供の口に運んだ。
熱にうなされる小さな唇が、それをゆっくりと飲み込んでいく。
◆
「飲んでくれました」とナーシャがほっとした声で言った。
「ええ」と私は言った。「でも——ここからです」
薬が効くまで。毒と熱が引いていくまで。
その間、私たちにできるのは——ただ見守り、支えることだけだった。
◆
夜が来た。
子供の熱はまだ高いままだった。
私は濡らした布でその額を冷やし続けた。ナーシャが定期的に薬湯を温め直した。
ミラは子供の手を握ったまま、じっと傍に座っていた。
◆
「お母さん、少し休んでください」と私は言った。
「いえ」とミラは首を振った。「私は大丈夫です。この子の傍にいさせてください」
その目には疲れと——強い母の意志があった。
私はそれ以上言わなかった。きっと私が同じ立場でも、そうしただろう。
◆
深夜。
ふと子供が小さくうめいた。
熱に浮かされ、何か聞き取れない言葉をつぶやいている。
「……母ちゃん」と、その唇がかすかに動いた。
「ここにいるよ」とミラが震える声で言った。「母ちゃんはここにいるからね」
◆
私は子供の脈を確かめた。
まだ速い。でも——先ほどより、わずかに落ち着いてきた気がした。
銀蘭が効き始めているのか。それとも、ただの気のせいか。
夜はまだ長かった。
◆
窓の外で虫の声が響いていた。
縁側でフェンが静かに目を閉じていた。眠っているのか、見守っているのか、わからなかった。
私は子供の額を、また冷やした。
——どうか朝まで。どうか、この子が朝を迎えられますように。
長い夜が、ゆっくりと更けていった。
(第125話へ続く)




