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遠い村から

 夏の旅から数日が過ぎた。


 研究所にはいつもの穏やかな日々が戻っていた。


 患者を診て、薬を作り、ナーシャを育てる。フェンは窓辺の貝殻を時々眺めていた。


 でも、その日の昼下がり——一人の女性が門を叩いた。



 女性はひどく疲れていた。


 着古した旅装。土に汚れた靴。何日も歩いてきたのだろう。


 その腕には——小さな子供が抱かれていた。


「……薬師様、ですか」と女性はかすれた声で言った。「どうか、どうか、この子を……」



 子供の顔は赤く火照っていた。


 息が浅く速い。高い熱だった。


「すぐに中へ」と私は言った。「ナーシャ、寝台の準備を」


「はい!」


 ナーシャが駆けていった。



 女性の名はミラといった。


 遠い山向こうの村から来たという。


「村に薬師はいなくて」とミラは言った。「この子の熱が五日も下がらなくて。——あなたの噂を聞いて、死にものぐるいで歩いてきました」



 私は子供を診た。


 高い熱。細い息。乾いた唇。


 ただの風邪ではなかった。何かもっと深いところで燃えている。


「……お母さん」と私は静かに言った。「この子の熱、いつから、何がきっかけだったか教えてください」



 ミラは震える声で話した。


 五日前、子供が森で遊んでいて小さな傷を作った。その夜から熱が出始めた、と。


「傷……」と私はつぶやいた。


 私は子供の身体を丁寧に調べた。


 そして——見つけた。足首に小さな化膿した傷を。



「これです」と私は言った。「傷から悪いものが入って熱を出しています」


「治りますか」とミラがすがるように言った。


「……治します」と私は言った。「必ず」


 でも——内心では容易ではないとわかっていた。



 傷の毒はすでに身体の深くまで回り始めていた。


 高熱が続けば幼い身体はもたない。


 急いで毒を抑え、熱を下げなければならない。


「ナーシャ」と私は言った。「解毒の薬湯を。それと熱冷ましを」


「はい!」



 ナーシャが薬を調合し始めた。


 その手つきは——もう危なげがなかった。あの夏の前に一人で熱冷ましを作れるようになった、あの子だ。


 私は傷の手当てをした。膿を出し、薬草を当てて清めていく。



 縁側からフェンが声をかけた。


「エリーゼ」とフェンは言った。「その傷の毒——タチが悪いな。匂いでわかる」


「フェン、何か知っていますか」と私は聞いた。


「ああ」とフェンは言った。「昔、見た。——あの熱には、ただの解毒では足りん」



 私はフェンに近づいた。


「教えてください」


「銀蘭の根だ」とフェンは言った。「あれを煎じて飲ませろ。——毒を芯から断つ」


「銀蘭……」と私はつぶやいた。「でも、あれはめったに手に入らない」



「薬草園にある」とフェンは言った。「お前が春に植えた、あれだ。——もう根が張っている頃だ」


 私ははっとした。


 春、何気なく植えた一株。あの銀蘭が——今、この子を救うかもしれない。



「ナーシャ!」と私は言った。「薬草園の奥。銀蘭を掘ってきてください。根を傷つけないように」


「銀蘭ですね! わかりました!」


 ナーシャが飛び出していった。


 ミラは子供の傍らで祈るように手を握っていた。



「お母さん」と私は言った。「大丈夫。——打てる手はすべて打ちます」


「……ありがとうございます」とミラは涙をこぼした。「私、この子しかいないんです。夫ももういなくて。この子だけが……」



 その言葉に、私は胸が痛んだ。


 この子しかいない。


 かつての私も——何もなかった。すべてを失って独りだった。


 だからこそわかる。この母親の必死さが。



「必ず助けます」と私はもう一度言った。


 今度は自分自身に言い聞かせるように。



 ほどなく、ナーシャが戻ってきた。


 泥の付いた白い根を両手に抱えて。


「先生! 銀蘭です! 根、傷つけてません!」


「よくやりました」と私は言った。「すぐ煎じます」



 私とナーシャは銀蘭の根を丁寧に洗い、刻み、湯に入れた。


 白い湯気が立ち昇り、薬草の独特の香りが部屋に満ちた。


 とろ火でじっくりと煮出していく。フェンが縁側からその様子を見守っていた。


「焦るな」とフェンは言った。「銀蘭は急ぐと効き目が死ぬ。——ゆっくり芯を引き出せ」



 やがて薬湯ができあがった。


 琥珀色の澄んだ薬だった。


 私はそれを冷まし、匙で少しずつ子供の口に運んだ。


 熱にうなされる小さな唇が、それをゆっくりと飲み込んでいく。



「飲んでくれました」とナーシャがほっとした声で言った。


「ええ」と私は言った。「でも——ここからです」


 薬が効くまで。毒と熱が引いていくまで。


 その間、私たちにできるのは——ただ見守り、支えることだけだった。



 夜が来た。


 子供の熱はまだ高いままだった。


 私は濡らした布でその額を冷やし続けた。ナーシャが定期的に薬湯を温め直した。


 ミラは子供の手を握ったまま、じっと傍に座っていた。



「お母さん、少し休んでください」と私は言った。


「いえ」とミラは首を振った。「私は大丈夫です。この子の傍にいさせてください」


 その目には疲れと——強い母の意志があった。


 私はそれ以上言わなかった。きっと私が同じ立場でも、そうしただろう。



 深夜。


 ふと子供が小さくうめいた。


 熱に浮かされ、何か聞き取れない言葉をつぶやいている。


「……母ちゃん」と、その唇がかすかに動いた。


「ここにいるよ」とミラが震える声で言った。「母ちゃんはここにいるからね」



 私は子供の脈を確かめた。


 まだ速い。でも——先ほどより、わずかに落ち着いてきた気がした。


 銀蘭が効き始めているのか。それとも、ただの気のせいか。


 夜はまだ長かった。



 窓の外で虫の声が響いていた。


 縁側でフェンが静かに目を閉じていた。眠っているのか、見守っているのか、わからなかった。


 私は子供の額を、また冷やした。


 ——どうか朝まで。どうか、この子が朝を迎えられますように。


 長い夜が、ゆっくりと更けていった。


(第125話へ続く)

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