打ち明け
兄弟の再会から数日が過ぎた。
その間、カイルは少し変わった。
いつもどこかに影を抱えていた人が——その影が少し薄くなった気がした。
ある夜、カイルが私に言った。
「エリーゼ。——あなたに聞きたいことがあります」
◆
「はい」
「兄のこと、です」とカイルは言った。「あなたは——いつから兄と会っていたのですか。墓地で何を話していたのですか」
約束の期限が来た、と思った。
アルヴィン殿下との約束。カイルには、まだ言わないでくれ、と。
でも——もう二人は向き合った。話してもいい頃だった。
◆
私はすべてを話した。
偶然、墓地でアルヴィン殿下に会ったこと。命日でもないのに花が供えられていたこと。少しずつ彼の心が開いていったこと。焦げた菓子のこと。涙のこと。
カイルは黙って聞いていた。
最後まで聞いてから——深く息を吐いた。
◆
「……あなたが、一人で兄と向き合っていたのですね」
「はい」
「危険だとは思わなかったのですか」とカイルは言った。「兄は——あなたを陥れようとしていた相手です。墓地で二人きりになって。——何かあったら、どうするつもりだったのですか」
その声には心配と、わずかな責める色があった。
◆
「……ごめんなさい」と私は言った。「黙っていたことは謝ります。でも——あの時は一人で行く必要があったのです」
「なぜ」
「カイルがいたら、アルヴィン殿下は心を開かなかったと思います」と私は言った。「兄弟だからこそ、見せられないものがあります。——私は他人だから。だから見せてもらえたのです」
◆
カイルがしばらく黙った。
「……それは、わかります」と、彼は言った。「でも——心配はします。あなたは俺の妻なので」
その言葉に、私は温かいものを感じた。
「ありがとうございます」と私は言った。「でも——フェンが見ていてくれました。本当に危ないときは、フェンが止めると」
◆
フェンが窓辺で頷いた。
「ああ。——毎回こっそりついて行っていた」
私は驚いた。
「フェン。毎回?」
「当然だ」とフェンは言った。「お前を、一人で敵かもしれない男のところに行かせるわけがなかろう。——少し離れた木陰から、ずっと見ていた」
◆
私は知らなかった。
フェンが毎回ついて来ていたなんて。
あの疲れやすい身体で。私に心配をかけまいと、黙って。
「フェン……」と私は言った。「無理をしていたのですね」
「無理ではない」とフェンは言った。「相棒の務めだ。——それに、いい運動になった」
◆
でも、私にはわかった。
フェンは私のために——自分の身体を押して、ついて来てくれていた。
その優しさが胸に染みた。
「……ありがとう、フェン」
「礼はいらん。——だが、次からは一言言え。隠れてついて行くのは疲れる」
◆
カイルがフェンを見て、少し笑った。
「フェンリルが見ていてくれたなら——安心です」
「だが、王子」とフェンは言った。「お前も、もっと妻を見ていろ。この女は一人で何でも抱え込む。お前が気づいてやらねば、いつか潰れるぞ」
「……肝に銘じます」とカイルは言った。
◆
「カイル」と私は言った。「黙っていて、本当にごめんなさい」
「いえ」とカイルは首を振った。「あなたは——俺のできなかったことを、してくれました。俺は兄に近づくことすら、できなかった。でも、あなたは——兄の心を取り戻してくれた」
カイルが私の手を取った。
◆
「感謝してもしきれません」と、彼は言った。「あなたは俺の妻であり——俺の兄の恩人でもある」
「恩人だなんて」と私は言った。「私は、ただ——放っておけなかっただけです」
「その『放っておけない』が」とカイルは言った。「兄を救ったのです」
◆
春の夜が静かに更けていった。
「これから」と私は言った。「アルヴィン殿下と、少しずつ家族になっていけたら、いいですね」
「家族」とカイルが、その言葉を噛みしめた。
「ええ」と私は言った。「兄弟として。そして——いつか本当の家族として」
◆
カイルが頷いた。
その顔には——長い間、彼を縛っていた兄への複雑な思いが、少しずつほどけていく安らぎがあった。
「……あなたと結婚して、本当によかった」と、カイルは言った。
「私も、です」と私は答えた。
◆
フェンが窓辺で長い息を吐いた。
「……また惚気か」
「フェン」
「だが、悪くない」とフェンは言った。「家族が増えるのは——いいことだ」
その言葉に、私ははっとした。
フェンが「家族」と言った。
◆
フェンも私の家族だった。
カイルも。ナーシャも。そして——今、アルヴィン殿下も、その輪に加わろうとしている。
七年前、一人だった私の周りに。
こんなにも、たくさんの家族ができた。
春の星が窓の外で優しく瞬いていた。
その光は——どこか、アンナさんが見守ってくれているようにも感じられた。
(第116話へ続く)




