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カイルへ

 墓地から帰った日の夜。


 私はカイルと向き合っていた。


 アルヴィン殿下との約束があった。カイルにはまだ言わないでくれ、と。


 でも——私は迷っていた。


 黙っているべきか、それとも伝えるべきか。



「……何かありましたか」とカイルが聞いた。


 いつものようによく見ている。私が何かを抱えていることに気づいていた。


「カイル」と私は言った。「一つだけ聞いてください。——詳しくは、まだ言えないのですが」


「はい」


「お兄様の心は——まだ生きています」



 カイルが息を呑んだ。


「……どういう意味ですか」


「言葉通りです」と私は言った。「アルヴィン殿下の中には、まだ——昔の優しいお兄様が残っています。私はそれを、確かに見ました」


 カイルがしばらく私を見つめていた。


 その目に、信じたい気持ちと信じるのが怖い気持ちが入り混じっていた。



「……どこで見たのですか」


「それは、まだ言えません」と私は言った。「約束をしたので。——でも、いつか必ず話します。あなたとお兄様が、自分たちの言葉で向き合える日が来たら」


 カイルは長い間、黙っていた。


 それから、ぽつりと言った。


「……信じてもいいのでしょうか」



「信じてください」と私は言った。「私は嘘はつきません」


「いえ」とカイルは言った。「あなたを疑っているのではありません。——俺は自分が怖いのです」


「怖い?」


「もし、また期待して——また裏切られたら。今度こそ立ち直れない気がして」



 私はカイルの、その言葉を静かに受け止めた。


 期待して、裏切られる怖さ。


 それは——私もよく知っていた。七年間、何度も味わった怖さだった。


「カイル」と私は言った。「期待するのは怖いですよね」


「……はい」


「でも」と私は言った。「期待しないことは諦めることです。そして諦めることは——もっと悲しいことです」



 カイルが私を見た。


「私は七年間、諦めていました」と私は言った。「期待して傷つくのが怖くて、何も望まず、ただ耐えていました。——でも、それは生きているとは言えませんでした」


「……」


「もう一度期待することは、勇気が要ります。でも——その勇気の先にしか、本当の幸せはありません。私はそれを知っています」



 カイルがしばらく目を閉じた。


 それから、ゆっくりと開いた。


「……あなたと出会えて、よかった」と彼は言った。「あなたはいつも——俺が一歩を踏み出す勇気をくれる」


「一歩を踏み出すのはあなたです」と私は言った。「私は隣で見ているだけ」



「兄を」とカイルは言った。「もう一度、信じてみます。——あなたが見たという、兄の心を」


「はい」


「それと」とカイルは少しためらってから言った。「あなたが何をしているのか——詳しくは聞きません。あなたを信じます。でも——」


「でも?」



「無理はしないでください」とカイルは言った。「あなたは自分のことより、他人のことを優先する人だ。——兄を救うために、自分をすり減らさないでください」


 その言葉に、私は温かいものを感じた。


「……ありがとうございます」と私は言った。「気をつけます」



 その時、フェンが窓辺から口を挟んだ。


「……無駄だな、それは」


「フェン?」


「この女に、無理をするなと言っても無駄だ」とフェンは言った。「こいつは他人のためなら、いくらでも無理をする。——だが安心しろ、王子」



「安心?」


「俺が見ている」とフェンは言った。「こいつが無理をしすぎたら、俺が止める。——だからお前は安心して、こいつを信じていい」


 カイルがフェンを見て頷いた。


「……頼みます、フェンリル」


「任せろ」



 私は二人のやりとりを聞きながら、少し笑った。


 守られている、と思った。


 フェンに。カイルに。——たくさんの人に。


 七年前、一人ですべてを抱えていた私が。今は、こんなにも守られている。



「フェン」と私は言った。「あなたに止められるほど、無理はしません」


「するだろう」


「しません」


「賭けるか」とフェンは言った。


「賭けません」と私は言った。「負けるので」


 フェンがふっと笑った。


「……正直でよろしい」



 春の夜が静かに更けていった。


 アルヴィン殿下の、しまい込まれた心は少しずつ開き始めている。


 でも——道のりはまだ長い。


 涙を一度流したからといって、すべてが解決するわけではない。


 長い間固まった心は——ゆっくりと時間をかけて、溶かしていくしかない。



 でも、私は焦らなかった。


 急がば、回れ。


 心を溶かすのに必要なのは、時間と根気と——そして隣にいてくれる誰かの存在。


 私は、その「誰か」になろうと思った。


 かつて、フェンが私にとって、そうであったように。


 窓の外で、春の星が静かに瞬いていた。


(第113話へ続く)

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