カイルへ
墓地から帰った日の夜。
私はカイルと向き合っていた。
アルヴィン殿下との約束があった。カイルにはまだ言わないでくれ、と。
でも——私は迷っていた。
黙っているべきか、それとも伝えるべきか。
◆
「……何かありましたか」とカイルが聞いた。
いつものようによく見ている。私が何かを抱えていることに気づいていた。
「カイル」と私は言った。「一つだけ聞いてください。——詳しくは、まだ言えないのですが」
「はい」
「お兄様の心は——まだ生きています」
◆
カイルが息を呑んだ。
「……どういう意味ですか」
「言葉通りです」と私は言った。「アルヴィン殿下の中には、まだ——昔の優しいお兄様が残っています。私はそれを、確かに見ました」
カイルがしばらく私を見つめていた。
その目に、信じたい気持ちと信じるのが怖い気持ちが入り混じっていた。
◆
「……どこで見たのですか」
「それは、まだ言えません」と私は言った。「約束をしたので。——でも、いつか必ず話します。あなたとお兄様が、自分たちの言葉で向き合える日が来たら」
カイルは長い間、黙っていた。
それから、ぽつりと言った。
「……信じてもいいのでしょうか」
◆
「信じてください」と私は言った。「私は嘘はつきません」
「いえ」とカイルは言った。「あなたを疑っているのではありません。——俺は自分が怖いのです」
「怖い?」
「もし、また期待して——また裏切られたら。今度こそ立ち直れない気がして」
◆
私はカイルの、その言葉を静かに受け止めた。
期待して、裏切られる怖さ。
それは——私もよく知っていた。七年間、何度も味わった怖さだった。
「カイル」と私は言った。「期待するのは怖いですよね」
「……はい」
「でも」と私は言った。「期待しないことは諦めることです。そして諦めることは——もっと悲しいことです」
◆
カイルが私を見た。
「私は七年間、諦めていました」と私は言った。「期待して傷つくのが怖くて、何も望まず、ただ耐えていました。——でも、それは生きているとは言えませんでした」
「……」
「もう一度期待することは、勇気が要ります。でも——その勇気の先にしか、本当の幸せはありません。私はそれを知っています」
◆
カイルがしばらく目を閉じた。
それから、ゆっくりと開いた。
「……あなたと出会えて、よかった」と彼は言った。「あなたはいつも——俺が一歩を踏み出す勇気をくれる」
「一歩を踏み出すのはあなたです」と私は言った。「私は隣で見ているだけ」
◆
「兄を」とカイルは言った。「もう一度、信じてみます。——あなたが見たという、兄の心を」
「はい」
「それと」とカイルは少しためらってから言った。「あなたが何をしているのか——詳しくは聞きません。あなたを信じます。でも——」
「でも?」
◆
「無理はしないでください」とカイルは言った。「あなたは自分のことより、他人のことを優先する人だ。——兄を救うために、自分をすり減らさないでください」
その言葉に、私は温かいものを感じた。
「……ありがとうございます」と私は言った。「気をつけます」
◆
その時、フェンが窓辺から口を挟んだ。
「……無駄だな、それは」
「フェン?」
「この女に、無理をするなと言っても無駄だ」とフェンは言った。「こいつは他人のためなら、いくらでも無理をする。——だが安心しろ、王子」
◆
「安心?」
「俺が見ている」とフェンは言った。「こいつが無理をしすぎたら、俺が止める。——だからお前は安心して、こいつを信じていい」
カイルがフェンを見て頷いた。
「……頼みます、フェンリル」
「任せろ」
◆
私は二人のやりとりを聞きながら、少し笑った。
守られている、と思った。
フェンに。カイルに。——たくさんの人に。
七年前、一人ですべてを抱えていた私が。今は、こんなにも守られている。
◆
「フェン」と私は言った。「あなたに止められるほど、無理はしません」
「するだろう」
「しません」
「賭けるか」とフェンは言った。
「賭けません」と私は言った。「負けるので」
フェンがふっと笑った。
「……正直でよろしい」
◆
春の夜が静かに更けていった。
アルヴィン殿下の、しまい込まれた心は少しずつ開き始めている。
でも——道のりはまだ長い。
涙を一度流したからといって、すべてが解決するわけではない。
長い間固まった心は——ゆっくりと時間をかけて、溶かしていくしかない。
◆
でも、私は焦らなかった。
急がば、回れ。
心を溶かすのに必要なのは、時間と根気と——そして隣にいてくれる誰かの存在。
私は、その「誰か」になろうと思った。
かつて、フェンが私にとって、そうであったように。
窓の外で、春の星が静かに瞬いていた。
(第113話へ続く)




