二度目の墓参り
それから私は時々、アンナさんの墓に通うようになった。
約束したから、というのもある。でも——それ以上に、アンナさんという人を知りたかった。
アルヴィン殿下が心をしまい込むほど慕った人。どんな人だったのだろう、と。
墓石を磨きながら、私は心の中でアンナさんに語りかけた。
あなたの坊やを救う手伝いをさせてください、と。
◆
数日後、また墓地でアルヴィン殿下と会った。
今度は偶然ではなかった。
彼は私が来る時間を見計らっていたようだった。
「……また、いらしたのですね」と、彼は言った。
「ええ。アンナさんに、ご挨拶を」
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「あなたは、アンナのことを何も知らないのに」とアルヴィン殿下は言った。「なぜ挨拶を?」
「知らないからこそ、です」と私は言った。「あなたが大切にした方です。きっと素敵な人だったのだろうと。——だから知りたいのです」
アルヴィン殿下がしばらく私を見ていた。
それから墓石の隣に腰を下ろした。
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「……アンナは」と、彼はゆっくりと話し始めた。
私は驚いた。
彼が自分からアンナさんのことを語り始めたから。
「料理が下手な人でした」
その言葉に、私は少し面食らった。
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「料理が、下手?」
「ええ。乳母なのに、菓子一つ満足に焼けなかった」とアルヴィン殿下は言った。その口調は、いつもの計算された優しさとはまるで違う、自然なものだった。「焦がした菓子を、それでも得意げに出してくるのです。『坊ちゃま、召し上がれ』と」
「食べたのですか」
「食べました」と彼は言った。「まずかった。でも——温かかった」
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私は黙って聞いていた。
「わたしは王子でした。最高の料理人が最高の菓子をいくらでも作ってくれた」とアルヴィン殿下は言った。「でも——アンナの焦げた菓子が一番美味しかった。あれだけは誰にも作れないものだった」
その声には深い懐かしさがあった。
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「アンナは、わたしを王子としてではなく、ただの坊やとして扱ってくれました」と彼は続けた。「叱るときは本気で叱った。褒めるときは抱きしめてくれた。——母も父も、わたしを次の王として見ていた。でも、アンナだけは、わたしをわたしとして見てくれた」
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「……いい方ですね」と私は言った。
「ええ。——いい人でした」
アルヴィン殿下が墓石を見た。
「だから、アンナが死んだとき。わたしは——世界でたった一人、わたしをわたしとして見てくれた人を失ったのです」
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風が静かに吹いた。
「葬儀で泣かなかったそうですね」と私は言った。
「カイルから聞きましたか」
「はい」
「……泣けなかったのです」とアルヴィン殿下は言った。「涙が出なかった。悲しすぎて、何も感じられなかった。——まるで自分の心まで一緒に死んでしまったようでした」
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その言葉に、私は深く頷いた。
「わかります」と私は言った。「私もそうでした。離縁状を受け取ったとき、涙が出ませんでした。——あまりに深い悲しみは、涙すら凍らせます」
アルヴィン殿下が私を見た。
その目に、初めて——同じ痛みを知る者への共感が宿った。
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「あなたも、そうだったのですか」
「はい。七年間、私の心は凍ったままでした」
「……どうして溶けたのです」
「前にも言いました。誰かが手を伸ばしてくれたから」と私は言った。「でも——もう一つ、大事なことがありました」
「もう一つ?」
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「悲しみを、悲しみとして認めること」と私は言った。「私はずっと、悲しくない、平気だと自分に言い聞かせていました。でも——本当は悲しかった。それを認めた瞬間に。——涙が出ました」
アルヴィン殿下が墓石を見つめていた。
◆
「悲しみを認める」と、彼は繰り返した。
「あなたは、アンナさんを失って悲しかった」と私は静かに言った。「それは当然のことです。隠すことでも、恥じることでもありません。——あなたは、ただ悲しかったのです」
アルヴィン殿下の肩が、わずかに震えた。
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「わたしは」と、彼は絞り出すように言った。「ずっと平気なふりをしてきました。完璧な王太子として。——悲しみなど見せてはいけない、と」
「もう、ふりはしなくていいのです」と私は言った。「少なくとも——ここでは。アンナさんの前では」
◆
長い沈黙があった。
アルヴィン殿下は墓石の前で、じっと座っていた。
やがて——彼の目から、一筋の涙がこぼれた。
二十年近く流れなかった涙だった。
◆
「……アンナ」と、彼は小さく呟いた。「会いたかった。——ずっと会いたかった」
それは王太子の言葉ではなかった。
ただ、母のような人を失った一人の少年の言葉だった。
私は何も言わずに、ただ隣にいた。
かつてフェンが私の隣にいてくれたように。
◆
しばらくして、アルヴィン殿下が涙を拭った。
「……みっともないところを見せました」
「みっともなくはありません」と私は言った。「やっと流せたのですね。——その涙を」
アルヴィン殿下が私を見た。
その顔は——もう完璧な仮面ではなかった。
ただ少し疲れて、でもどこか軽くなった、一人の人間の顔だった。
◆
「エリーゼ妃」と、彼は言った。
「はい」
「あなたは……不思議な人だ。会うたびに、わたしの隠していたものを一つずつ引き出していく」
「引き出しているのではありません」と私は言った。「あなたが自分で出しているのです。——私は、ただ隣にいるだけ」
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アルヴィン殿下がふっと笑った。
その笑いは——初めて見る、作り物でない笑いだった。
少しぎこちなくて。でも、確かに本物の。
「……ありがとう」と、彼は小さく言った。
春の風が墓地の花を揺らしていた。
しまい込まれた扉が——今、確かに少しずつ開き始めていた。
(第112話へ続く)




