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二度目の墓参り

 それから私は時々、アンナさんの墓に通うようになった。


 約束したから、というのもある。でも——それ以上に、アンナさんという人を知りたかった。


 アルヴィン殿下が心をしまい込むほど慕った人。どんな人だったのだろう、と。


 墓石を磨きながら、私は心の中でアンナさんに語りかけた。


 あなたの坊やを救う手伝いをさせてください、と。



 数日後、また墓地でアルヴィン殿下と会った。


 今度は偶然ではなかった。


 彼は私が来る時間を見計らっていたようだった。


「……また、いらしたのですね」と、彼は言った。


「ええ。アンナさんに、ご挨拶を」



「あなたは、アンナのことを何も知らないのに」とアルヴィン殿下は言った。「なぜ挨拶を?」


「知らないからこそ、です」と私は言った。「あなたが大切にした方です。きっと素敵な人だったのだろうと。——だから知りたいのです」


 アルヴィン殿下がしばらく私を見ていた。


 それから墓石の隣に腰を下ろした。



「……アンナは」と、彼はゆっくりと話し始めた。


 私は驚いた。


 彼が自分からアンナさんのことを語り始めたから。


「料理が下手な人でした」


 その言葉に、私は少し面食らった。



「料理が、下手?」


「ええ。乳母なのに、菓子一つ満足に焼けなかった」とアルヴィン殿下は言った。その口調は、いつもの計算された優しさとはまるで違う、自然なものだった。「焦がした菓子を、それでも得意げに出してくるのです。『坊ちゃま、召し上がれ』と」


「食べたのですか」


「食べました」と彼は言った。「まずかった。でも——温かかった」



 私は黙って聞いていた。


「わたしは王子でした。最高の料理人が最高の菓子をいくらでも作ってくれた」とアルヴィン殿下は言った。「でも——アンナの焦げた菓子が一番美味しかった。あれだけは誰にも作れないものだった」


 その声には深い懐かしさがあった。



「アンナは、わたしを王子としてではなく、ただの坊やとして扱ってくれました」と彼は続けた。「叱るときは本気で叱った。褒めるときは抱きしめてくれた。——母も父も、わたしを次の王として見ていた。でも、アンナだけは、わたしをわたしとして見てくれた」



「……いい方ですね」と私は言った。


「ええ。——いい人でした」


 アルヴィン殿下が墓石を見た。


「だから、アンナが死んだとき。わたしは——世界でたった一人、わたしをわたしとして見てくれた人を失ったのです」



 風が静かに吹いた。


「葬儀で泣かなかったそうですね」と私は言った。


「カイルから聞きましたか」


「はい」


「……泣けなかったのです」とアルヴィン殿下は言った。「涙が出なかった。悲しすぎて、何も感じられなかった。——まるで自分の心まで一緒に死んでしまったようでした」



 その言葉に、私は深く頷いた。


「わかります」と私は言った。「私もそうでした。離縁状を受け取ったとき、涙が出ませんでした。——あまりに深い悲しみは、涙すら凍らせます」


 アルヴィン殿下が私を見た。


 その目に、初めて——同じ痛みを知る者への共感が宿った。



「あなたも、そうだったのですか」


「はい。七年間、私の心は凍ったままでした」


「……どうして溶けたのです」


「前にも言いました。誰かが手を伸ばしてくれたから」と私は言った。「でも——もう一つ、大事なことがありました」


「もう一つ?」



「悲しみを、悲しみとして認めること」と私は言った。「私はずっと、悲しくない、平気だと自分に言い聞かせていました。でも——本当は悲しかった。それを認めた瞬間に。——涙が出ました」


 アルヴィン殿下が墓石を見つめていた。



「悲しみを認める」と、彼は繰り返した。


「あなたは、アンナさんを失って悲しかった」と私は静かに言った。「それは当然のことです。隠すことでも、恥じることでもありません。——あなたは、ただ悲しかったのです」


 アルヴィン殿下の肩が、わずかに震えた。



「わたしは」と、彼は絞り出すように言った。「ずっと平気なふりをしてきました。完璧な王太子として。——悲しみなど見せてはいけない、と」


「もう、ふりはしなくていいのです」と私は言った。「少なくとも——ここでは。アンナさんの前では」



 長い沈黙があった。


 アルヴィン殿下は墓石の前で、じっと座っていた。


 やがて——彼の目から、一筋の涙がこぼれた。


 二十年近く流れなかった涙だった。



「……アンナ」と、彼は小さく呟いた。「会いたかった。——ずっと会いたかった」


 それは王太子の言葉ではなかった。


 ただ、母のような人を失った一人の少年の言葉だった。


 私は何も言わずに、ただ隣にいた。


 かつてフェンが私の隣にいてくれたように。



 しばらくして、アルヴィン殿下が涙を拭った。


「……みっともないところを見せました」


「みっともなくはありません」と私は言った。「やっと流せたのですね。——その涙を」


 アルヴィン殿下が私を見た。


 その顔は——もう完璧な仮面ではなかった。


 ただ少し疲れて、でもどこか軽くなった、一人の人間の顔だった。



「エリーゼ妃」と、彼は言った。


「はい」


「あなたは……不思議な人だ。会うたびに、わたしの隠していたものを一つずつ引き出していく」


「引き出しているのではありません」と私は言った。「あなたが自分で出しているのです。——私は、ただ隣にいるだけ」



 アルヴィン殿下がふっと笑った。


 その笑いは——初めて見る、作り物でない笑いだった。


 少しぎこちなくて。でも、確かに本物の。


「……ありがとう」と、彼は小さく言った。


 春の風が墓地の花を揺らしていた。


 しまい込まれた扉が——今、確かに少しずつ開き始めていた。


(第112話へ続く)

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